08/15の日記

16:25
unforgettable -4-
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 外はまだすこし雨が残っていた。
猫はきっと遠くには行っていないはずなので、2人は雨粒を受けながら生い茂った木々をかき分ける。

「う゛ぉおおい、どこだぁネコ――ッ!」
「うるせぇ!黙ってさがせっ」
「っつーか名前があったら呼べるのによぉ」

XANXUSは返事をせず、仕方なくスクアーロはチッチッと口を鳴らしながら湿った地面を進んだ。
濡れた下草をブーツで揺らしてふと顔を上げると、少し離れたオリーブの木の下にちょこんと座る猫の姿が見えた。

“いたぁっ!”とっさに大声をあげそうになり慌てて口を押さえる。見知らぬ人間が触れようとしただけで逃げてしまう猫だから驚かすのは厳禁だ。もしここで再び逃がしたら、今度こそXANXUSはブチ切れるに決まっている。
スクアーロは一呼吸おいてから反対側にいるXANXUSにあそこにいるぞと指をさした。

XANXUSはすぐさまオリーブの木に向かう。そして姿勢を低くして猫に近づくと、ゆっくり両手を伸ばし慣れた手つきで抱きあげた。すると猫は暴れもせず、おとなしく彼の腕におさまった。
ぬかるみで泥だらけになった足で白いシャツが汚れるのも構わず、XANXUSは猫を抱いたまま小屋に向かって歩きだす。

その様子を見てスクアーロはふうっと息を吐いた。
そして濡れて顔にひっついた髪をかきあげながらそのあとを追う。先を歩くXANXUSのピンと立ち上がっていた髪もまた、水分をふくんでくたりとしていた。






 小屋に戻った猫は体を震わせて水滴を弾き、何事もなかったように一心に毛繕いをはじめた。

「良かったなぁ、見つかって」
「………」

安心しているのか、それともまだ怒っているのか、黙ったまま返事をしないXANXUSを前に、スクアーロはだんだん不安になってきた。
無事見つかったのはいいけれど、わざわざ猫探しに来たわけではないし、このままこんな小屋にいても相手があらわれるとは思えない。それにXANXUSウォッチングは楽しいが、一緒にいる時間が長くなるほどボロが出て怪しまれるのではと気が気でない。

――そろそろ引きあげた方が良さそうだな…。
あれだけムキになっていたのに、はからずも自分が出会う前のXANXUSと時を共有したことでスクアーロの心境に微妙な変化があらわれていた。ひとつぐらい、秘密があったってかまわないと。
ほんとうに実に単純な性格だ。



「…さてと、屋敷にいる連中に挨拶でもしてくるかぁ」
「……」
「あぁ、そいつのことは誰にも言わねぇから安心しろぉ」

何を言ってもXANXUSは黙ったまま、ただ猫の様子を見つめている。
けれどスルーされることなど日常茶飯事なので、特別気にもせずそのまま出て行こうとした。が、彼の湿った髪から雫が落ちるのを見てその足が止まる。

「濡れたままじゃ風邪ひくぞ。部屋に戻ってシャワーを浴びろぉ」

普段は誰よりも漢前な気性のスクアーロだが、こういう言葉がさらりと出てしまうので、ルッスーリアやベルから世話焼きのママみたいだと評されることがある。
良く言えば面倒見がいい、悪く言うとお節介な性格に彼自身はあまり気づいていないらしく、しかもそれが対XANXUSになるとパワーアップしてしまう。もちろん本人は無自覚なのだが、とにかく放っておけなくて小うるさい母親のようになる。ターゲットが14歳だとなおさらなようで、、、。

「おい、XANXUS。聞いてるかぁ?帰ってシャワー、」
「うるせぇな」

ようやく口を開いた彼の頬を水滴が伝った。
それを見たとたん、スクアーロの右手が反射的に動き、ごく自然な動作で濡れた頬を指先で拭った。

「なっ、なにを…ッ!」

あまりに突然の出来事にXANXUSは目を見開き、言葉と同時にスクアーロの手を思いきり払いのけた。
ついさっき知り合ったばかりの他人、しかも使用人がとった予想外の行動に頭が混乱する。目の前の無礼な男を怒鳴りつけようとするのだけれど、心臓がドキドキ脈打ち自分の意志とは関係なく触れられた頬がカッと熱くなる。

『てめぇはクビだ!』

そう声をあげようとした時、スクアーロはさらにとんでもない行動に出てしまう。







つづく

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ぷつっ……←集中力が切れた音

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