07/09の日記

13:11
unforgettable -2-
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 部屋を出たスクアーロは、まっすぐ地下の武器倉庫へ向かった。
頑丈な重い扉を開き、一直線にバズーカを保管してある場所に進む。
ボンゴレ技術部が初期の物から幾度かの改良を重ねた現在のモデルは、細かい年代や場所、時間制限なども使用者が自由にカスタマイズできるようになっていた。けれど普段の任務ではあまり使う機会はなく、こうして厳重に保管されている。

スクアーロは防弾ガラスに覆われたケースからそれを取り出すと、ダイヤルをちょうど20年前にセットした。そして迷わず銃口を自分に向ける。

「待ってろよ、御曹司。保護者としてオレが相手を確かめてやるからなぁ」

XANXUSが聞いたら『誰が保護者だ』と、拳を2、3発食らわせそうなセリフを吐いて、彼はトリガーを引いた。










 

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 衝撃音と共に反射的に閉じた目を再び開くと、辺りは白煙に包まれていて視界が霞んだ。
でもしばらくしてそれが晴れると、スクアーロの眼前には懐かしい風景がひろがっていた。

「…ここは……、」

彼が佇んでいたのは、木々が生い茂る広大な庭だった。その敷地の向こうに当時XANXUSが暮らしていた屋敷が見える。
14歳だったスクアーロは彼を訪ねる際、この庭を抜け部屋の前にあった大木からバルコニーへ飛び移り、室内へ“侵入”していた。それは正面玄関から入ると、オッタビオはじめうるさい大人たちに『XANXUS様にお取り次ぎするまでしばらくお待ちください』と、何分も足止めを食わされるからだった。だからいつも屋敷の者に見つからないよう注意しながら、この庭を走り抜けていたのだ。

「…懐かしいな」スクアーロは思わず笑みをもらす。
――今、あの部屋にXANXUSはいるのだろうか。自分が出会う前の、14歳のXANXUSが…。

と、こんなふうにノスタルジックな空気に浸っている場合ではない。
スクアーロは当初の目的を果たすべく、気をとりなおし屋敷に向かって足を踏みだした。
すると突然頬に冷たいものがあたった。見上げると、灰色の空から雨粒がぽつりぽつりと落ちてくる。

「雨かぁ、」そう呟いて視線を戻した瞬間、屋敷の方から歩いてくる人影が目に入り、とっさに近くにあった茂みに身を隠す。
息をひそめて近づいてくる人物を注視すると、それはまぎれもなく若い頃のXANXUSだった。
けれど当然ながらスクアーロが知っている16歳の彼よりも身長は低く、まだ少年ぽさが残っている。たったふたつしか違わないのに、目の前にいるXANXUSはずいぶんと幼いように見えた。

スクアーロはドキドキとうるさく鳴る胸のあたりを押さえ、油断すれば「XANXUS!」と声を掛けてしまいそうになる自分に落ち着けと言い聞かせる。それでもズボンのポケットに手を突っ込み、大股で歩く姿は今のXANXUSとそっくりで、うっかり吹き出しそうになってしまう。

屋敷の回廊から庭に出たXANXUSは、小雨が降る中スクアーロが隠れている茂みの前を横切り、庭の奥へと歩いてゆく。

――…どこへ行く気なんだ?

気づかれないよう後を追いながら、スクアーロは首を傾げた。
しばらくすると、XANXUSの行く手に小屋があらわれた。そこは芝刈り機などの庭を手入れする道具が置いてある物置小屋で、普段は誰も近づかない。

すると突然XANXUSが小走りでその小屋に向かったので、スクアーロは驚いて危うく濡れた地面で滑りそうになった。

――あいつ何をあんなに急いで…。
まさかあのボロい小屋の中で誰かが待ってるのか?けど自分の部屋があるのにわざわざあんな…。

そこまで考えてスクアーロはハッとした。
もしかすると、XANXUSの初めての相手というのは、同級生や知り合いの女ではなく、屋敷に出入りしているところを周りに見られてはまずい人物なのではないか。例えば人妻とか学校の教師とか、そういう類の女なのではないかと。
そう考えると、彼があれほど隠したがったのも納得がいく。

「XANXUS…、おまえ守備範囲広すぎるぞぉ」

ため息まじりにそう呟き、スクアーロはXANXUSが入って行った小屋の前に立った。
ふいに彼の頭に、以前ルッスーリアに無理やり一緒に鑑賞させられた『チャタレイ夫人の恋人』という映画のワンシーンが浮かぶ。森の古い小屋で男女が逢い引きをし、激しくセックスをするシーンが。
そういえば、あれも女は人妻ではなかったか…。

一瞬スクアーロは、このまま元の世界に戻ってしまおうかと考えた。
少年時代のXANXUSをもっと見ていたい気持ちもあるけれど、しかしこれからこの中で起こる場面を、果たして自分が目撃してもいいのだろうかと。

それでもやはりここまで来たのだからと思い直し、スクアーロは扉とは別にある小さな窓をこっそり覗いてみた。

すると薄暗い中で、XANXUSがこちらに背を向ける格好で立っていた。彼は何やらごそごそと体を動かしていたが、すぐに身をかがめスクアーロの視界から消えてしまった。
きっと床に女が寝そべっていて、彼を手招きしたに違いない。

「なッ、あいついきなりかよ!」

スクアーロは小さく舌打ちをし、しゃがみ込んだXANXUSの姿をさがして板壁にへばりつくようにして窓を覗きこむ。ところがあまりに集中しすぎて、暗殺者としては初歩的なミスを犯してしまう。足元に落ちていた小枝を踏んでしまい、静寂の中にパキッと音が響いた。

「誰だっ」

小屋の中からXANXUSが声をあげた。
…万事休す。








つづく

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わざと途中で切っているわけではなく、集中力が以下略なのです
よろしければ引き続きお付き合いおねがいします(;ω;)

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