07/03の日記

10:56
unforgettable -1-
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 普段から軽口を叩きあっている者同士をはたから見ていると、一体どこからが冗談で、どこまでが本気なのかわからなくなることがある。
XANXUSとスクアーロがまさにそれであり、2人をよく知らない人からすれば、彼らは常にケンカごしで会話をしているように見えるだろう。
けれど実際は、お互いそれで上手くコミュニケーションをとっていたりする。
ただ、オンもオフも関係なくずっとそんなふうなので、絶妙な言葉のキャッチボールがたまに暴投になり、ガチバトルに発展することも少なくない。だいたいきっかけはいつも、ほんとうにくだらないことなのだけれど。

 そして今日は、XANXUSの書類整理を手伝っていたスクアーロが振ったこの話題がきっかけとなる。

「そういやこないだベルたちと話してたんだけどよぉ、初めて映画館で観た映画って覚えてるかぁ?」

あまり映画自体に興味がない彼自身は記憶が曖昧で、内容どころかタイトルさえ覚えていなかったのに対して、XANXUSは考える間もなくあっさりとある映画の題名を答えた。書類に目を通していたスクアーロは驚いたように顔を上げる。

「すげぇな、即答かよ。よっぽど忘れられない思い出の映画みたいだなぁ」

言葉の最後に含みをもたせて、にやりと意味深に口角をあげる。暗に、忘れられない相手と一緒だったからだろう?と言っているのだ。
と、こんなふうに書くとスクアーロが妬いているように見えるかもしれないが、決してそういうわけではない。XANXUSにもそんなかわいい思い出があったんだなという、どちらかといえば微笑ましい気持から出た純粋な言葉であって悪気などまったくない。
けれどXANXUSは、勝手な憶測で茶化すような言い方をされたのが気に入らなかったらしく、憮然として言った。

「そういうわけじゃねぇ。誰かと違って記憶力がいいだけだ」
「そうなのかぁ。オレはまた映画よりもっといい思い出があったのかとおもったぜ」

ちなみにスクアーロが言うところの“いい思い出”とはすなわち“初体験”を意味していて、もちろんXANXUSもそれを理解している。
だからそんな話題さらっと流せばいいものを、こういうところはXANXUSも子どもみたいでどっちもどっち。そのうえ空気を読まないスクアーロが、追い討ちをかけるようなことを言ったのでXANXUSはさらに言い返す。

「てめぇ、何が言いたいんだ。ゲスな勘ぐりするんじゃねぇ」
「げっ、ゲスだとぉ?!失礼なこと言うな!つーかなんでキレてんだ?あ、もしかして人に知られたくねぇ秘密が…」
「うるせぇ、黙れ」そう言うが早いか、手にしていた書類の束で目の前のスクアーロの頭をはたいた。

「ッてぇなぁっ!」たいして痛くもないのに大袈裟に騒ぐ彼を無視して、XANXUSは紙面に目をおとした。

一方いつもの調子で軽く冗談を言ったつもりだったスクアーロは、なぜXANXUSがこんなことぐらいでムキになるのかわからず、だんだん腹が立ってきた。
そしてもしかすると、ほんとうに何か隠したい事があるのかもしれないと思いはじめた。

そういえば以前2人で飲んでいて同じような話題が出た時も、XANXUSは結局話をうやむやにしたのではなかったか。酔った勢いでしつこく訊きまくったら、ぼそっと「14」とだけは答えた。でもそれ以外、相手がどんな女だったかとか、いくつだったと訊いても口を開こうとせず、挙げ句の果てには「忘れた」と言ったのだ。
その時はスクアーロもかなり酔っていて、XANXUSの初体験が自分と同じ14歳だったことで妙にテンションが上がり、ぶっ倒れるまで飲んで気がついたら朝だった。

けれど今考えると、なぜあれほどまで頑なに相手のことを話さなかったのか不思議だ。
はじめての人を忘れるなど、あるはずがない。




「なぁっ!相手!相手はどんな女だったんだ?!」

その言葉に、書類を持つXANXUSの指がピクリと反応したのをスクアーロは見逃さなかった。

「あ―――っ!もしかしてオレの知ってる奴なのかぁ?だから隠すんだろ」
「……」
「やっぱそうなんだな!誰だよ?…あっ、おまえと同級生だった胸のデカい金髪、そういやあいつ、ずっとしつこくメールしてきてたよなぁ。あいつか?」

別にスクアーロは是が非でも相手の女を特定したいわけではなかったけれど、必要以上に隠されると暴きたくなるのが人情で、彼は半分意地になってわけのわからないことまで言い出した。

「ずるいぞ、おまえはオレの相手を知ってるんだからオレだって知る権利はあるはずだぁ!」

もちろんその相手というのはXANXUS本人なので、知ってるも知らないもないというのに。

XANXUSが呆れていると、痺れを切らせたのか、スクアーロが突然席を立ちドアに向かって歩き出した。そして「もういい。自分の目で確かめてやる」と言い残し、部屋を出て行ってしまった。

残されたXANXUSは手にした書類を机に放りだし、両手を頭の後ろで組んでそのまま椅子の背もたれに深く身体を沈めた。そうして目を閉じ、深くため息をつくのだった。






つづく

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※途中で切るつもりではなかったのですが、ここ5000字までしかアップできないのと、それから最近どうも集中力が持続せず、いろんな文章を書きかけては中途半端なまま放置というパターンが多すぎて(笑)、自分を追いこむために途中投下します(^^;
すいません´`

つづきがんばります

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