02/26の日記
12:09
小話
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たとえばコーヒーショップの窓際のカウンターなんかで、明らかに誰かを待ってるふうな男性が灰皿をいっぱいにしてるのを見かけると、『この人が待ってる人ってどんな人かな…?』って気になるのはわたしだけでしょうか?
※ただしボスみたいなイケメンに限る
.
「たった今スクアーロ隊長がお戻りになられました」
談話室に入ってきたその隊員の声は少しうわずっていて、ルッスーリアは何かあったのだろうかと思いながら口を開く。
「あら、えらく早いわね。てっきりボスと一緒に食事にでも行くのかと思ってたのに」
「それが、あの…、お戻りなられたのは隊長お一人です」
「えっ、」ベルフェゴールは思わずソファーから身を乗り出した。
「隊長一人ってどういうことだよ、ボスは?」
「いらっしゃいません。隊長はタクシーでお一人で戻っていらっしゃいました」
「タクシー?!」
「タクシー?」
見事に声がハモったあと、2人は顔を見合わせた。
今からさかのぼること数時間前、XANXUSは任務地から一週間ぶりに帰国するスクアーロを迎えに空港へ向かった。
当初の予定では隊員が行くはずだったのを、急に『空港の近くに用事ができたからついでに…』とかなんとか言いだして、颯爽とトレンチを羽織り出ていった。
「…この雨の中、空港の近くに用事だってさ。もうちょっとましな口実ないのかよ」
「まぁまぁ、いいじゃないの」
2人はそんなことを言いあって、強くなった雨粒が吹きつける窓越しに、XANXUS自ら運転する紺色のセダンを見送った。
それなのに、スクアーロ1人で帰ってきたとはどういうことなのか。
「まさか空港でケンカしたとか?」
「いやだ、あり得るから笑えないわ」
その時ドアが開いて、当の本人が姿をあらわした。
「う゛ぉおおい!すげぇ雨だなぁ、コートが濡れちまったぜぇ」
スクアーロは肩や袖についた雫をパタパタと払ったあとボタンを外しだしたが、その様子はいたって普段通りに見える。彼は感情がストレートに顔や態度にあらわれるので、もしXANXUSと何かあったのならすぐにわかるはず。
「お帰りなさい。ねぇ、ところでボスはどうしたの?」
ルッスーリアが尋ねると、スクアーロは上着を脱ぎかけたまま不思議そうな顔で彼を見た。
「どうしたって何が?ボスがどうかしたのかぁ」
その反応を見たルッスーリアとベルフェゴールは、彼はXANXUSが空港に行ったことを知らないのだと理解した。XANXUSのことだから自分が迎えに行くと連絡もせずに行ったのだろう。
「あのさ、ボスが空港まで迎えに行ったんだけど」
「えっ、」そこでスクアーロの動きが完全に止まった。
「だいたいなんでタクシーなんかで帰ってきたんだよ。空港には隊員が行くことになってただろ?」
「…あ、あぁ。そうだったが向こうを経つのも遅れたし、こっちに着いてからも悪天候で着陸できず半時間も旋回してて、やっと出てきた時にはゲートに誰もいなくて…」
呆然とした様子で彼は答える。
「だったら電話すればいいじゃないの」
「つながらなかったんだぁ。だからそのまま歩いてたらタイミングよくタクシーがいたんで…」
「乗っちゃったってわけ?」
コクリと頷くスクアーロを見て2人はため息をついた。
なぜ少しぐらいその場で待つということができないのか、この男は…。電話が繋らなかったというのだって、きっと2、3回のコールで苛々して切ったに決まっている。
けれど迎えに行くと連絡しないXANXUSもXANXUSだし、どっちもどっちと言うべきなのか。
「それで、ボスは?!」
中途半端にコートを脱ぎかけたまま、スクアーロは呆れる2人に向かって急かすように尋ねた。
「まだ戻ってないわよ。完全に行き違いになったようね」
「―――…オレ、…」
「なに?」
「空港へ戻る」
それを聞いてベルが声をあげる。
「はぁあああ?!ちょっとセンパイ本気で言ってんの?ボスに『先に帰った』って電話すりゃ済むことじゃん」
「ボスは出ねぇよ」
「なんで?そんなの掛けてみないとわからない、っつーかさ、今から行ってまた行き違いになったらどうす…、って、おい!」
ベルの言葉を聞いているのかいないのか、脱ぎかけていたコートを再び羽織りだしたスクアーロを見て、今度はルッスーリアが制する。
「ちょっとあんた冗談でしょ?ボスだって子どもじゃないんだし、気づいて戻ってくるわよ。それに連絡もなしに行ったってベルが言うようにまた行き違いになるわ。ねぇ、聞いてるの?」
「あぁ、聞いてる。けどなぁ、ボスは電話に出ねぇし1人で戻ってもこねぇ。だからオレが行かねぇと」
確信に満ちた顔でスクアーロは言い張るが、あの短気なXANXUSが2時間以上もおとなしく待っているとは考えにくい。そういうXANXUSの性質を一番わかっているはずなのに、何故わざわざこの雨の中を空港まで戻るというのかが理解できない。
「ちょっと待って、私がボスにスクアーロが戻ったって電話してみるわ」
そう言うと、ルッスーリアは携帯を取り出した。
「やめろっ!電話なんかするんじゃねぇ」
「ッ?!、どうしたのよ急に大声出して…」
呆気にとられるルッスーリアに代わってベルフェゴールが尋ねる。
「どうしてボスに電話しちゃだめなんだよ?」
「わざわざ知らせる必要ねぇからだ」
「は?意味わかんねぇし。だいたいさぁ、最初の到着予定から2時間も経ってるのに、まだボスが空港にいる保証なんかないだろ?センパイが空港に行ってる間にもしボスが帰ってきたら、」
するとスクアーロは口角を少し上げふっと息を吐いた。
「まだいるさ」
「なんだよ、その自信。“ボスはオレが着くまでずっと待ってる”って、そう言いたいわけ?」
「そうじゃねぇ。上手く説明できねぇが…、ボスは自分が待ってる場所にオレが現れねぇなんてこと、万にひとつも考えてねぇ。って、そういうことだ」
「おんなじ意味じゃん」
「とにかくっ!オレは行くぞぉ」
一方的に話を切り上げると、スクアーロは湿ったままのコートを着て足早に部屋を出て行ってしまった。
「ちょっと待っ、」
「ベルちゃん!行かせてあげなさい」
「えっ?けどボスが帰ってきた時センパイがいなかったら、また面倒なことになるじゃん」
するとルッスーリアは、手にしていた携帯をしまいながら答えた。
「…私もボスはまだ空港にいると思うわ」
「はぁ?さっきまで言ってたことと違…、もういい!みんな勝手にしろ」
ベルフェゴールはため息をついたあと、そばにあったクッションを乱暴に掴んでそのまま横になった。
いつの間にか降り続いていた雨もやみ、空は淡いあかね色に染まっていた。
end
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このあと空港で「おせーぞカスが」「すまねぇなぁ」のやり取りがあったかどうかはさだかではありませんが、とにかくボスは行き違いになろうが雨が降ろうが槍が降ろうが、必ず自分のところにスクたんが来るって微塵も疑ってないし、スクたんもそれを重々承知してるわけで、しかもわざわざ自分を迎えに来てくれたボスを1人で帰らせるような真似できるはずないっていう…
ねぇ、スクたん(笑)
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