☆針谷幸之進☆

□お見舞い
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コウから初めてデートに誘われた日曜日。
突然の電話。ドタキャンって。風邪?大丈夫なの?
心配だよ。こうなったら様子を見に行ってみよう。

ピンポーン

不機嫌そうな声が聞こえてくる。

「あ、起きてる」

玄関を開けて出てきたコウは私が来るとは全く思っていなかったみたい。
ものすごく驚いてる。

「おまっ!何でいるんだよ」

「心配になって来ちゃった。ふふ」

「来ちゃったって…」

「思ったより元気そうで良かった」

安心した。なんか、元気みたい。あれ?なんか感じが違う。
あ、服が妙にかわいい。それに髪がサラサラしてる。
な、何チェック入れてんの?私。バカみたいじゃない。

「風邪引きそうだったから、おまえにうつしちゃ悪いと思って…」

理由をちゃんと説明してくれる。
来て良かった。コウってすごく優しいんだよね。
でもなんか言い訳してる。ふふ。かわいいかも。

「かわいいね、その服」

「そんなに見るなよ。おまえが来るならこんな格好してねえっつーの」

でも、家にいるんだから、別にいいのに。

「髪、いつもと違うね」

「家にいる時までセットしてられっか」
「もう、おまえ帰れ!」

あ、そっか。長居したら悪いよね。風邪がひどくなったら
私のせいだ。帰ろう。

「じゃ、お大事にね」

慌ててコウが引き止める。

「待て!上がってけよ」

「え?いいの?」

「風邪うつっても文句言うなよ?」

「言わない!嬉しいな。お邪魔します」

うわー。男の子のお家にお邪魔するの初めてだよ。緊張する。
あー。どうしよう。

「なんだよ。遠慮するなって」

「あ、うん」

部屋に入れてもらう。
コウの部屋すごく片付いてる。綺麗すぎる。私の部屋見せられないよ。

「えと。すごく綺麗にしてるんだね。偉いなぁ」

「まぁな。前にも話したけど、家じゃトップオブ片付け上手だからな」

「あぁ。そうだったよね。うんうん」

「適当に座ってろよ。何か飲み物持ってくる」

「私も手伝うよ」

「お客はだまって座ってろ」

「はい」

そう言って部屋を出て行ってしまったコウ。
ひとり取り残されて、どこに座ったらいいかわからなくて
キョロキョロ部屋中を見回してしまう。
アルバムらしき分厚い表紙の物を見つけてしまった。
み、見たい。でも勝手に見たら怒られるよね。後で聞いてみよ。
部屋の真ん中で突っ立ったまま、ぼーっとしてるとコウが
オレンジジュースを持ってきてくれた。

「おまたせー。って何突っ立ってんだ?」

「どこに座ったらいいかわからなくて考えてて…」

それだけじゃないんだけど、アルバムが気になってたとか恥ずかしいし。

「さすが、おまえだな」

「な、なんで?」

「ただ、何となくおまえらしいなって思ってさ」

「私って変かなぁ?」

何だか自己嫌悪。私っていつもぼーっとしてるとか言われるんだよね。

「オレは気に入ってるけどな」
「のんびりしてて、いいんじゃね?」

「褒め言葉?」

「知らねぇけど、一応褒め言葉にしといてやる」

「あはは。ありがと」

とりあえず、机の椅子をすすめられて座る。
喉がかわいていたのでオレンジジュースを一気に飲み干す。

「おいしーー!」

「まあな、うまいよな」
「でも、そんなに喉かわいてたのかよ」

「だって、心配で走ってきたから喉カラカラで」

「そんなに心配させちまったか。わりぃ」

「いいのいいの。勝手に来ただけだし」

「ありがとな」

「え?」

「いや、なんでもねえ!」

顔赤い?熱出たのかな?
おでこを触ってみる。熱じゃない?

「ばっ!急にさわんな」

「ごめん。顔赤かったから熱出たのかなって思って」

「ちげーよ」

「ごめん」

はぁ〜。何か怒ってるみたい。どうしよ。何か話題はないかな?
…あ!そうだ。アルバム!

「ねぇねぇ、あそこにあるのってアルバム?」

本棚を指差して聞いてみる。

「そうだけど、まさか見せろっつー事か?」

「出来ればお願いできないかなーと」

「しゃーねぇな。見せてやっから、ここ座れ」

と、ベッドに座らされる。

「変な写真があったら隠さねえとな」

「変な写真なんてあるの?」

「ガキの頃の写真なんて変なのばっかじゃん」

「そうかなぁ?」

アルバムを持ってきて隣に座る。
ページを捲るたびに可愛いを連発する私。だってほんとに可愛いんだもん。
満足そうな顔して写真を見せてくれる。

「可愛いね、コウ。小さい頃ってこんなに可愛かったんだね!」

パタンとアルバムを閉じてしまう。

「どうしたの?もっと見たい!」

「小さい頃はってどういう意味だ?今のオレ様はどうなんだよ」

「小さい頃は可愛くて、今はかっこいいよ?」

「かっ…」

固まってる。コウが固まってるよ。私何か変な事言ったの?

「恥ずかしい事平気な顔して言うなっつーの」

「ごめん」

照れてたのかぁ。良かった。変な事言った訳じゃなくて。
今のコウは可愛いけど、かっこいいもんね。うん。

「アルバムの続き見せてぇ」

手を伸ばすと、素早く持ち上げられ手が届かない。

「なんで?」

「もう十分見たよな?」

「もっと最近のも見たいよ」

手を伸ばして取ろうとするけど、全然かなわない。
むきになって取ろうとして体が触れ合う。
びくんっとして、手を引っ込める私に

「見たいんじゃねえのか?」

「もういい。えと、私帰る」

立ち上がった私の手を引き私の体はコウの胸の中。
一瞬、何が起きたのかわからなくて、動けないでいると
ぎゅっと抱きしめられる。

「何?どうして?」

「まだいろよ」

「だって、風邪ひどくなったらいけないし」

って。言いたいのはそんな事じゃなくて、何で今こんな事されてるのよ、私は。
でも、抱きしめられてると安心する。こんな事された事ないから知らなかった。
だけど、恥ずかしいよ。ドキドキするよ。

「ねぇ、離して?」

「ダメ」

「お願い。恥ずかしいよ」

「ぜってぇ、ダメ」

「なんで?」

ため息をついて一言。

「おまえが好きだから。言わねぇとわかんねーよな、おまえは」

「あの…」

「おまえはどうなんだよ。言ってみ?」

オレ様炸裂してる。完全にコウのペースに飲まれてるよ、私。

「好きじゃなかったら、お見舞いなんて来ないよ!」

半分やけになって言ってしまう。あ!言っちゃった。
答えを聞いてコウは大胆になる。
ベッドに押し倒され少しパニックになってしまう。

「待って。どうして?」

「目ぇ閉じろ」

「え?」

「後悔すんなよ。それと風邪移したらごめんな」

だんだん顔が近づいてきてたまらず目を閉じる。
と同時に大胆な行動とは裏腹なキスに驚く。
唇、柔らかい。
しばらく押し当てられていた唇が離れ現実に引き戻される。
気がついたら私はコウの背中に両手をまわしていた。
自分の行動に驚いた。何してんの?私。

「突然すぎるよ」

顔を真っ赤にして抗議する私。

「じゃあ、この手はなんだ?」

あ!なん、だろう?
コウが起き上がるから私も一緒に起き上がっていた。
手をまわしてるんだから当然なんだけど…
とまどっていると優しく抱きしめられた。

「好き、なんだろ?」

「うん」

素直に答える私。

「オレも好きだ」

「ありがとう」

もう一度柔らかい唇が触れる。

「お礼じゃなくて、私もとか言えねぇの?」

「あ、私も!」

「バカ!」

頭を思い切り撫でられる。くしゃくしゃになっちゃう。

「コウの意地悪。バカ!」

私も頭をくしゃくしゃになるまで撫でた。

「コウの髪、サラサラしてて、セットしてない方が好き」

「いくらおまえに言われてもあのスタイルは変えられねえな」

「ハリー様だもんね」

「当然」

「あはは」

私達は笑いあった。自然な態度でいられる。
もしかして、一番大事な事かもしれない。

「ね、ほんとに私、もう帰るね」

「なんでだよ」

「だって、お母様いるんでしょ?あんまり長居したら…」

急に真っ赤になって慌てだす。

「やっべー。忘れてた」
「このままおまえと一緒にいたらオレ何かしちまいそうだしな」

「え?何かって?」

「いや。なんでもねぇ!とにかく帰ったほうがいいな」

「うん」

コウは私のくしゃくしゃになった髪を指で梳かしてくれた。
あ、いつもの優しいコウだ。嬉しい。
突然キスされてちょっと怖かったから、些細な行動で優しさを感じられて嬉しい。

「ありがと。じゃ、帰るね」

「おう。また明日な」


次の日学校で朝から会う事ができた。

「おっす」

「おっす」

しばらく見つめ合ってしまう。昨日の事が恥ずかしかったのは私だけでは
なかったらしい。コウも照れくさそうにしている。
良かった。
見つめ合う二人に周りの友達が冷やかす。

「おまえら何やってんだ?告白タイムか?朝っぱらから」

「うっせぇ!そんなんじゃねえよ」

でも、ほっぺが赤いよ、コウ。

「じゃあ、昼に屋上な!」

それだけ言うと走って行ってしまった。
照れ屋さんだよね、コウって。
後姿を見送っていると、さっきの彼が

「見てりゃわかるよ。おまえら、付き合ってんだろ?」

「えーと。何の事かなー?じゃ、急ぐから」

急ぎ足で教室に向かう私に

「バレバレだよ。みんな噂してるぞー」

からかうように言われてしまった。
そうだったんだ。私達って。気付かなかった。
あ、そう言えば、コウ、元気そうだったな。風邪じゃなかったんだ。
良かった。安心したらコウの顔が見たくなった。
早くお昼にならないかな?

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