☆難病小説☆

□野球を観に行こう!そして再発。
1ページ/2ページ

秋、野球のシーズンも終わる頃、頻繁に消化試合を見たがるまこ。
消化試合見て何が楽しいんだ?
オレはどっちかっつーと、優勝争いしてる時とか、熱い試合の方が
燃えるんだけどな。こいつの考えはほんとにわからない。

「また行くのか?消化試合」

「行く!連れてって!」

「優勝決まってて、カープなんて、Bクラスだろ?おもしろいのか?」

「試合はいつ観てもおもしろいって決まってるんだよ!」
「いい?ファンなら最後まで応援するの。Bクラスでも4位になれるかも!」
「だから、精一杯応援してあげるの。愛なんだよ!」

熱い。野球の話になると熱いんだよな、まこは。
体が心配だ。秋とは言え、残暑で暑い日もある。
逆に薄着じゃ寒い日だってあるんだ。
無理してんじゃねえのか?

神宮での最終試合、今年もまたカープだ。
チケットは半額。行くか。

「今年最後だしな。行くか」

「やったー!」

抱きついて喜んでるまこを見ると元気に見える。
心配いらねえか。

「ジェット風船用意しないとね」

「またオレにやらせんだろ?」

「当然。だって、私がやったら膨らむ以前に空気入っていかないもん」

以前から疑問に思ってた事がある。
確か、こいつは巨人ファンだったはず。

「なあ、巨人ファンいつやめたんだ?」

バイトの帰りに毎日のように通っていたドーム。
あの時も熱かったな、こいつは。

「あぁ。病気になった頃、両方応援してて、結果、カープに行った。あはは」

「何か理由あんのか?」

「応援団と色々あって、めんどくさくなった」

「そうなのか?」

「うん。カープの方がいい!」

「応援団て、ナンパとか?」

「そんな事もあったね。でもそれは関係ないよ」

「おまえは女同士で球場に行く事禁止な」

「えーー!応援するだけなのに?」

何でわかんねえんだよ。ナンパだよ。何度もされてんだろ、まったく。
ナンパされても言わねえし。いや、彼氏にそんな事普通言わないものなのか。

「ナンパなんて無視すりゃいいじゃん。いかに応援を楽しむか、だよ」

野球バカだ。いや、応援バカだ、こいつは。

試合当日。最終試合の神宮は混んでいた。
とにかく席の確保だ!指定席も開放され、背もたれのある席に座れる。
それにしても、外野でしか観ないなんて、ほんとに応援バカだ。

「応援団のそばに行こう!音がずれるとつまんないから」

「わーってるって」

「最終戦、絶対勝つ!」

燃えてる。まこが別人に見える。

「試合が始まるまでに食事しよう。神宮に来たらカレーでしょ?」

「だーよなー!待ってろ。買ってきてやる」

「コウはカレー大好きだよね」

「まあな。行ってくる」

神宮のカレーはうまいよなぁ。
などと思いながら戻る。

「ほら、食え。全部食えよ。残すなよ」

「無理だよぉ」

「わかった。食ってやるよ」

「わーい。コウ大好きー!」

周りの注目の的になってんじゃねえか!

「でかい声で言うなよ。注目されるじゃねえか」

「だいすき」

耳元で言われて焦る。照れるじゃねえか!結局は見られるし。

試合開始前の応援が始まる。
スタメンの発表に合わせてその選手の応援歌の大合唱だ。
まこは歌ってる。オレは歌知らねえし、聞いてるだけ。

球団の応援歌、これは覚えちまった。

「コウは歌っちゃダメ」

「何でだよ。せっかく覚えたのに」

「目立つから!」

「ちぇ」

確かにオレの大音量じゃ目立つか。ははは。さすがオレ。
だてにボーカリストやってねぇってな!

野球って観てるとおもしろいんだよな。
まこはいいプレーを見るとカープだろうがヤクルトだろうが関係なく
見た?今の。すごいね!なんて、大はしゃぎだ。
野球そのものが好きなんだろうな。こいつは。


試合はカープの勝ち。無事に帰路につく。

「勝ったね。私の行く試合いつも勝つよ。勝利の女神?」

「あはは。よく言うよ」

「いいの!勝利の女神なんだからね」
「ミラクルアーチ狙え〜レッツゴー!レッツゴー!かねもとー」

いきなり歌うなよ!しかもファンファーレかよ。

「まこー。やーめーろー」

「平気だよ。みんなテンション上がってるし」
「ほら、あの人たちも歌ってる」

確かに歌ってるけど、男だし。おまえ男並みの野球ファンだな。

「only you歌ってあげようか」

「やめてくれよ。落ち着け」

「だって楽しかったんだもん。コウと一緒に応援できて」

「おまえさ、どっちかっつーと、応援される立場じゃねぇ?今」

「なんでー?」

「病気、早く回復するように、とかさー」

一瞬で空気が変わる。

「一生治らない病気だよ?回復だって限度があるじゃん」

いきなり冷静になって、さっきまでのまこはいない。
かなり冷めた口調で話す。

「応援されても自分の体の中で起きてる事だしさ、関係ないよ」
「がんばれ、とか言われると腹立つし」
「これ以上何がんばればいいのさって思うよ」

「だよなー。がんばってるもんな、おまえは」

にこっと笑って

「だから、私は応援してあげたい」
「野球だけじゃないよ。がんばってる人を応援するの」
「でも、がんばれって言っちゃダメなの。がんばってる人に失礼でしょ?」

「なんか、おまえらしいな」

「がんばれって言葉は人によっては傷つくんだよね」
「これ以上何をがんばればいいのかって、プレッシャーになっちゃう」
「逆に喜ぶ人もいる。人間て不思議だよね」

「人の事ばっか考えてんのな」

「人の立場にたって考えるって大事だよ」

オレ、おまえに会えて良かったよ。自分より人の事ばっか考えて
勉強させられるよ、おまえの言葉には、いつも。
入院中も人の世話やいて、自分だって大変なのに。
今だって少しは回復したとは言え、大変な事に変わりはないのにな。
オレには甘えっぱなしだけど、大人だよな。

「どしたの?」

「こんな事言うの恥ずかしいけどさ、おまえを好きになって良かった」

「言われた私の方が恥ずかしいよ」

「マジで、めちゃくちゃ惚れてる」

「わかったよ。もう言わなくていいから」

頬が赤くなってる。愛しすぎる。オレおかしくなっちまったみてえだ。

「ずっと側にいろよ。嫌って言っても離さねえからな」

不意打ちでキスする。腕を組んでいるからキスなんて簡単にできる。
こんな所でするなんて思っていなかったらしく

「見られるから」

「もっとしたい」

「バカ!」

腕をすり抜ける。でも、杖も持っていないし、歩けないよな。
今日のオレは少しおかしい。まこをいじめて楽しんでる。

「オレがいなくても大丈夫なのか?」

「だいじょばない」

「聞こえねえなぁ」

「動けないよぉ」

「オレにお願いする事があるんじゃねえの?」

「うぅ…」
「腕かして!」

半分ヤケになって大声で言う。
今日はこのへんでカンベンしてやっか。

「怒るなよ」

「怒ってないもん」

怒ってるじゃねえか。すぐ顔に出るからわかりやすいんだよ、おまえは。

「絶対に変なカップルだと思われた」

「みんなテンション上がってるから大丈夫なんじゃねえの?」

「そうかな?」

「そうだって」

さっき自分で言ってたくせに忘れてんのかよ。

「勝ったしねー。そうだね。うん。大丈夫!」

さすが、まこだ。もう立ち直ってる。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ