☆難病小説☆

□発病・私が終わる時
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ある日を境に強い頭痛に襲われる。一日4回、鎮痛剤を飲んで
バイトに通う毎日。

「コウ、私、最近頭痛がひどいの。ズガーンって来るの」

「マジで?大丈夫かよ」

「鎮痛剤で抑えてるけど、それでも痛いの」

「病院、行った方がいいんじゃね?」

「でも、バイトあるし、しばらく様子みる」

「無理すんなよ」

そんなやり取りが毎日続いて、約一ヶ月。
頭痛は治まった。これでカラオケでも歌える。
などとのん気な事を考えていた。でも、それも長くは続かなかった。
今度は体が痺れはじめた。
足の先から始まった。でも、そんなに気にしなくてもいいかと思い
バイトを続けた。そのうち足の上の方まで痺れはじめ、お腹まで
かなり痺れていた。それでもバイトは続けた。

仕込みのバイト。正直体力勝負だ。下にある冷蔵庫を開く為に
しゃがむと、ころんと体が後ろに倒れてしまった。
毎日こんな調子でバイトを続けた。歩くのも辛くなり、電車の駅の階段など
息切れして上れないくらい。
包丁を握る右手さえ痺れなければ続けようと思っていた。
元々虚弱体質で短い時間のバイトしかできないのに頑張りすぎていたのかも。

「なあ、おまえ最近おかしいぞ」

コウが私の変化を見逃すはずもなく、心配してくれている。

「実は体が痺れて、感覚がおかしいの。疲れやすいし」
「階段とか上るのすごく大変なの」

「やべぇよ。病院行こうぜ」

「病院、怖いよぉ」

「んな事言ってる場合か」
「いつからおかしいんだ?」

「一ヶ月くらいかな?でもひどくなったのは最近。急にひどくなったの」

「次のバイトの休み、病院付き合うから」

「うん。ありがと」

バイトの休み、右手まで痺れてきた。これでバイトは当分休む事決定。
病院に行く事も決定だな。もうあきらめた。なるようになれ。

近所の総合病院に行く。症状を話すと神経内科なんだけど
担当医が予約でいっぱいなので整形外科に行く事に。
レントゲンを撮って、MRIの予約をして帰る。

「まこ、マジでやばい病気なんじゃねぇ?」

「うん。そんな気がする」

MRIを撮って、神経内科を受診する。

「MRIで造影剤注射するんだって。どうしよう。注射怖い」

「そりゃオレも注射は嫌いだけどよ。仕方ねえだろ?」
「痛くないように祈っててやっから」

「うん。がんばる。うぅ…」

「注射くらいで泣くなよ。オレの方が心配で待ってらんねえだろ」

「ごめんね」

「がんばれよ!」

ぽんっと肩をたたかれる。
MRIが終わって扉が開く。コウはちゃんと待っててくれて

「大丈夫だったか?注射」

「全然痛くなかったよ。コウのおかげかな?」


MRIの結果を聞きに行く。ひとりで歩いて病院へ。
もうすでに歩くのさえ普通にできない状態になっていた。
タクシーに乗ればいいのに。
節約生活していたので思いつかず、苦しんで歩く。

先生からの言葉は信じられないものだった。

「入院しましょう」
「ほら、ここに炎症があるでしょ?」

写真に写った脊髄には光が写っていた。
この病院では設備が整ってないので女子医大に入院する事になる。

「あの、病名は何ですか?」

「多分そうだと思うんだけど、今はやめておきましょう」

言えないほどの病気なの?
コウ、どうしよう。私、ほんとにダメかもしれないよ。

その日の深夜番組で私と同じような症状の患者が出ていて
だんだん力がなくなって死んでいくと言うものをやっていた。
私の病気はこれなのかもしれない。
だとしたら生きている時間はあと少しなの?

すでに私の力は相当弱くなっており、右手で物を掴むのが困難な状態。
たまらず、コウに電話していた。

「どうした?」

「私、死ぬかもしれない」

「結果、悪かったのか?」

「入院だって」
「今テレビで似たような症状の人が死ぬ病気だってやってた」

「今からそっち行くから、落ち着けよ」

私は自分がもし死んでもかまわないと思っていた。
そんな病気だったら、受け入れるしかない。なってしまったものは仕方ない。
生に対する執着は驚くほどなかった。

コウが駆けつけてくれる。
会うなり私を抱きしめて、呼吸を整えてから一言。

「おまえは死なない」

「私はどっちでもいい。病気になったのは事実だし」

「おまえのいない世界でオレは生きていけねえ」
「だから死ぬとか言うな」

「先生、そんなに深刻な顔してなかったよ」
「すぐに入院が必要だって言っただけ」
「だから多分死なない」

「良かった」

「でも、私、どうでもいいんだ。力もなくなって体痺れて」
「普通に生活できないんだもん。死んでもいい」

「だーかーらー」
「おまえにとってオレって何なんだよ」

「大好きだよ。コウがいなかったらバイトだってしてないし」
「世界中で一番大好きな人だよ」

「オレにとってもおまえは大事な存在なんだ」
「わかってんのか?」

「うん」

「愛してる」

キスから伝わる気持ち。ごめんね。私、自分の事ばっかり。

「私、病気と闘うよ。入院したら毎日来てくれる?」

「行く。当たり前じゃねぇ?」

「入院の日、朝からタクシーで病院だよ。大丈夫?」

「まかせろ」

「あさってだよ」

「わかった」

明日はパジャマや下着買いに行かなきゃ。
よれよれになりながら買い物を済ませる。日に日に弱る体。
自分ではどうしようもない。

入院当日。コウと二人で入院グッズを持って病院へ。
いきなり髄液検査をすると言う。
あまりに突然の事に恐ろしくなる。背中に注射されるなんて。

「怖いよ」

震えながらコウに抱きつく。

「大丈夫。オレがいるだろ?」

「ずっと待っててね。終わったらすぐに来て」

「それじゃー彼氏は外に出ていて下さいね」

そう言って閉められる病室のドア。

髄液と言うのは脳のまわりを満たしている水で、それが脊髄を
通って下まで来ていると言う。
炎症が起きている場合、髄液にすぐに反応が出るので
それを調べると言う説明を受ける。

すぐには採取できなくて、何度も針を刺された。
麻酔をしても、その麻酔の注射が痛い。
やっと終わったけど、すごく時間がかかった。

一定時間頭を動かさずに枕無しで寝ていなくてはならない。
この時間は絶対安静で、動くと頭痛など色々な弊害が出る。

病室のドアが開く。

「コウ?」

「大丈夫か?」

「痛かったよ。針何度も刺されて」

「よくがんばったな。偉いぞ」

そう言って頭をなでてくれる。
なんか眠くなっちゃったな。


二日後、髄液検査の結果が出て、その日から点滴をする事になる。
中身はステロイド。炎症を抑える、副腎皮質ホルモン。
二人部屋だったので、隣の人から色んな情報を聞く。

「あなた、難病よ」

そう言われて、難病ってよくテレビでやってる難病の少女とか
治らない病気の事だよね。と考えてみる。
難病と言われたからと言って別に動揺もしなかった。
隣の人は私も同じなのよ。と言っていた。

点滴を受けて寝ている時にコウが来てくれた。

「すげー事になってんな」

「なんかね、私、難病なんだって」

「あぁ?難病?」
「治らねえって事なのか?」

「うん」

「病名は?」

「先生にはまだ聞いてないよ」

「じゃあまだわからねえじゃん」

「でも、多分、難病だと思う」
「先生来たら聞いてみる」

ちょうど良いタイミングで先生が来る。
難病であるのか、と言う事と病名を聞いてみる。

「一番可能性が高いのが難病指定されている、多発性硬化症なんですよ」
「自分の免疫で自分の細胞を攻撃してしまうんです」
「脊髄の中に神経の束があるんですけど、神経の束を包んでいる筒を」
「攻撃して炎症を起こすんです。その筒がほころびて、その部分の」
「神経がむき出しになって、色んな障害が出るんです」

私の力がなくなったのと筋肉が落ちてしまったのと体の痺れは
様々な場所に多数の炎症が起きているからなんだそうで、感覚異常、
触っていないのに触られているように感じたり、熱かったり冷たかったり
痛かったり色々な症状が出るのもそのせい。

「先生、その症状はずっと続くんですか?」

コウが聞いてくれる。

「炎症が治まればある程度は良くなります。でも後遺症が残る場合があります」
「それから、この病気は一生のお付き合いになりますから」
「再発と言う危険性が高いです。」
「再発を起こさない為には、疲れすぎないこと、風邪をひかない事など」
「暑さにも弱い病気ですので、気を付けないといけないですね」

一通りの説明をして先生は次の患者さんの所に向かう。

「私、終わったね」

「何バカな事言ってんだよ」

「だって、一生治らないし、後遺症残るし、」

「でも、ある程度治まるって言ってたぞ」

「うん。でも、炎症の出来る場所によっては下半身不随とか」
「車椅子になるかもしれないし」

「そんな事わからねえだろ?」
「例え、なったとしても、オレはおまえのそばにいる」

「うん。ありがと。でも今なら間に合うよ」
「私から逃げてもいいよ」

「ふざけるな!逃げるわけねえだろ」
「オレは何があってもおまえが好きだよ」

「こんな制限ばっかり付いてる私でもいいの?」
「ご飯とか作ってあげられないんだよ」
「ただのお人形さんだよ?」

「関係ねえよ」
「おまえの事はオレがずっと守る」

なんでコウはこんなに私を想ってくれるの?
私は病気で何もしてあげられないのに。

「キス以上の事、できなくてもいいの?」
「疲れる事しちゃいけないって」

「キスだけでいいじゃねえか」

「嘘!」

「嘘じゃねえよ」

いきなりキスされる。待ってよ。ここ病院。

「こんな場所でしちゃダメでしょ?ぷっ」
「あはは」

「笑うなー。かわいくねえ」

「可愛くなくて、病人だけどいいの?」

「いいっつーの」
「つか、おまえでないとオレ駄目なんだ。」
「病気でも何でも、おまえはおまえだろ」
「オレにはそれだけでいい」

嬉しい。どうしよう。好きだよ。大好きだよ。
でも私なんかと関わってたらバンドの練習に影響出るかもしれないし。
別れなくていいのかな?甘えていいの?

「後悔しない?」

「しねえな」

「メジャーデビューに差し支えない?」

「全然関係ねえよ」

「じゃ、約束して」

「何を?」

「お見舞い来なくていいから、バンドとバイトに専念して」
「私、明日から大部屋に移るし、ゆっくり出来ないと思うし」
「休みの時だけ来て」

「それで別れなくていいならそうするけど」
「浮気すんなよ」

「病院でどうやって?ふふ」

「いんじゃん。ヘルパーとかリハビリとか、先生とか」

「ありえなーい」
「あ!この前、バイト先の男の子から花束届いた」

「んだとーー!」

「絶対お見舞いには来られないらしいよ」
「女性のパジャマ姿の部屋には入れないって」

「オレだって見たかねえよ」

「じゃなくて、照れ屋なんだよ」

「オレ様だってまこがいなかったら来ねえよ」

「わかってる。ごめんね。意地悪言って」

「隣の部屋だよ。大部屋」
「お姉さま方がたくさんいるからビビらないように」

「今度の休みに来るから、それまで我慢しろよ」
「それから、無理すんなよ。わかったな?」

「了解!」

敬礼のポーズ。カーテンを引いて隠れてキス。
病院なのに…
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