土九(原作)

□過去があるから今がある
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「ひじ…か…たく…ん…。」


「ひ…じか…た…くん…。」




眠い。
眠くてたまらねェ。
だったらこのまま眠っちまえばいい…。
そうすれば楽…になれ…る…。




『十四郎さん。』

その声は、ミツバ…。

『十四郎さん。』

俺はお前に…。

『十四郎さん、そんなところで寝たら風邪ひきますよ。』

どうしても言いてェことがあるんだ…。





瞼を開ければ俺の顔を覗き込んでいるミツバがいた。
どうやら俺は縁側で寝ちまったらしい。

空にはあの日と同じ綺麗な月。
場所もあの日と同じで。

違うのは、隣に座るミツバが大人になっている。
俺も髪が短く、真選組の隊服を着ている。

俺はゆっくりと起き上がるとミツバの隣に座った。





『手紙、読んでくれたのね。そーちゃんたらなかなか渡してくれないんだもの。』

「お前知ってたのか…。」

渡された手紙にはミツバの人生が残り少ないことが書かれていた。
江戸に出てくる前から知っていたのだ。

『自分の体のことは自分が一番よく分かります。だから、当馬さんとの結婚を決めたの。』

「総悟の為に好きでもねェ男と結婚ってか。」

『そーちゃんにはいっぱい迷惑かけたから。私でも人並みの幸せ手に入れられたのよって、安心させたかったの。』

自分は利用しただけだから、居なくなった後は早く忘れて幸せになって欲しいと、それを俺から転海屋に伝えてくれと、手紙には綴られていた。

「俺に面倒事押し付けやがって。」

『ごめんなさい。でもこんなこと頼めるの十四郎さんしかいなくて。』

あんな悪党に、そんな必要ねェんだよ。

『でもそーちゃんから聞いたわ。当馬さんのこと…。』

野郎は地獄行きだ。お前と顔合わすことは二度とねェ。

俺だって、
野郎と同じ悪党だ。
お前を傷つけた。


「なぁミツバ。お前は本当に幸せだったのか?」

『えぇ、とっても。手紙にも書いたけど、十四郎さんには感謝しているのよ。』

ミツバは柔らかい笑顔を俺に向けてくれる。

『私だってわかっていました。みんなと一緒に行けないことくらい。でも心の整理付けられなくて、あんなこと言っちゃった。』

「………。」

『でもね、十四郎さんが突き放してくれたから、武州に残してくれたから、ここまで生きることができたの。そーちゃんの、みんなの立派になった姿を見ることができたの。十四郎さんもその隊服、とっても似合っているわ。』

「………。」

『私、本当に幸せだった。みんなと出会えて、十四郎さんのこと好きになって…。』

「ミツバ!!」

どうしてもお前に言いたいことがあるんだ。

今言わねェと、もう二度と言えねェ!!

俺が言いたかった言葉は、

「俺は、ずっとお前に惚れてたんだ。」

『十四郎さ…ん…。』

ミツバの瞳から涙が溢れる。
俺はミツバをしっかりと抱き締めた。

『その言葉だけで、充分です。』





「ひじ…かたく…ん。」





『彼女が呼んでいるわ。行ってあげて。』

「ミツバ、俺はもう…。」

『彼女のこと好きなんでしょ?』

ミツバはゆっくりと体を離す。

「あいつが好きなのは万事屋だ。」

『彼女から聞いたんじゃないんでしょ?』

「でも俺は、二度と…。」

『好きになった人にはね、幸せになってほしいもの。』




「ひじか…たくん…。」




「……すまねェな。」

『そーちゃんのことよろしくお願いしますね。』

「あぁ、心配すんな。」

『私はみんなのこと、空から見守っていますから。』

俺は縁側から立ち上がると声のする方を見つめる。
そこには真っ暗な闇だけが広がっている。

そしてミツバの方を見ると、その姿はどこにも無かった。




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