土九(原作)

□男は女の涙に弱い
2ページ/5ページ



「そうだったのか…。それでミツバ殿は…その…土方君の…恋人…だったのか?」

銀時と近藤の会話から土方とミツバの間には何か関係があると感じた九兵衛は近藤に尋ねてみた。
が、近藤は話して良いものか迷っているようで黙っている。

「お願いだから教えてほしい。知りたいんだ。」

九兵衛は近藤に詰め寄るがまだ迷っているようだ。
その時銀時が助け舟を出すように口を開いた。

「男と女のことに首突っ込むなんざ野暮だぜ。」

「でも銀さんは思いっきり首突っ込んでたみたいですけど。」

九兵衛の横にいたお妙の声がした。

柳生家でのあの事件以来表情も軟らかくなり女らしくなってきた九兵衛を見てお妙は、誰か好きな男性ができたのではないかと思っていたのだ。
誰なのかは分からなかったが今それが土方なのではないかと、そう感じたのだ。
九兵衛が知りたがっているのなら。

「ここまで聞かされたら気になるでしょ?眠れなくなっちゃうわ。ねっ、近藤さん。」

近藤は自分に向かってにっこりと微笑むお妙に対して断るという選択肢は無く、土方とミツバについて知っている限りのことを話し出した。







数日後。

この日土方はオフだった。というかオフにさせられた、という方が正しい。昨日近藤から言われたのだ。

「トシ、お前明日は休みな。」

「あん?」

「お前…、ずっと休みとってねーだろ。トシに倒れられたら困る。」

そうなのだ。ミツバと永遠の別れをしたあの日以来、土方は転海屋の一件で怪我をしたにもかかわらず休んでいない。
シフト上では非番はあるのだが、仕事が忙しい、と理由を付けて働きずめの日々を送っていた。

「そんなヤワじゃねーよ。」

「局長命令だから。」

そう言われると土方は何も言えない。

近藤は土方のしたいようにさせてやるつもりだった。が、ものには限度がある。
朝早くから夜遅くまで仕事に没頭し、食事もそこそこに床に就く生活を見ていたら放っておく訳にはいかなかった。


結局いつも通り早起きをした土方は、道場で竹刀を振っていた。
ひたすら体を動かした後風呂で汗を流し自室へ戻ろうとした時、総悟の部屋の前を通ると聞こえてきたのだ。すすり泣く声が。

白昼堂々幽霊?

幽霊が苦手な土方だが時刻は午前11時。有り得ないだろう、と思い市中見回り中で主のいないはずの総悟の部屋に声を掛けた。

「そこにいるのは誰だ?」

するとすすり泣く声が止まりしばらくした後聞こえてきた言葉は、

「柳生…九兵衛だ。」

土方は、開けるぞ、と言うと返事も聞かずに障子を開けた。







僕は近藤さんから土方君とミツバ殿のことを聞いた。
そしてどうしても会いたくなった。

ミツバ殿という女性に。

ミツバ殿はご両親と一緒に武州のお墓に眠っている。そこまで行くのは無理なので僕は沖田君を訪ねて屯所にやって来た。
両手には袋いっぱいの激辛煎餅。ミツバ殿の好物だと聞いたから。

久しぶりに会った沖田君は以前より痩せているように見えた。
無理も無い。親代わりだったたった一人の肉親を亡くしたのだ。

「先日近藤さんからミツバ殿のことを聞いて…。これをミツバ殿に…。」

沖田君は嬉しそうな顔をして、

「姉上も喜んでくれまさァ。」

と言って僕を自室に通してくれた。

仏壇に飾られた写真の人はとても綺麗で、優しく微笑んでいた。

この人が、ミツバ殿…。

土方君が愛した女性。

近藤さんがミツバ殿はおしとやかで賢くて、とても優しく女らしい人だったと言っていた。

僕とは正反対だ。




次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ