土九(原作)
□川で泳ぐのは危険
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土方はパトカーで後を追ってきた隊士の力を借りて無事上様を救出し、パトカーに乗せ隊士に『すまいる』まで送らせた。びしょ濡れの為パトカーに乗るのをためらった土方は、九兵衛と歩いて戻る事にする。
「大丈夫か?土方君。」
九兵衛と二人になった土方は濡れた髪をかきあげて、安堵の表情を見せた。
「寒くはねェが服が張りついて気持ちわりィ…。」
夏で良かったとつくづく思う。
全て脱いでしまいたいがそれは無理な事、せめて上だけでも…、と土方はスカーフをとりベストを脱ぎ、濡れて肌にぴったりと張りついたシャツも脱いでいく。
薄暗い街灯の下、均整のとれた上半身が露わになった。仕事上鍛えられている裸体は妙に色気があり、大人の男をいやというほど感じさせる。腕についた筋肉はより一層男らしさを強調していた。
柳生家で対峙した時、ぬかるみに足を取られ前のめりになったのを、受け止めてくれたのはあの体だったのかと思うと、九兵衛の顔は火照りを感じみるみるうちに真っ赤になっていった。
男に囲まれて男として育った九兵衛は男の裸など見慣れているのに、何故こんなにも心臓が波うつのか。先程の上様の全裸に比べればどうということは無いはずなのに。
「九兵衛。」
土方の声が聞こえ九兵衛は我にかえる。
「上着くれ。」
九兵衛が渡すと土方は上着を羽織り、次に差し出された刀を腰に差す。そして上着のポケットに入れていた為濡れずに助かった煙草とライターを取り出し火をつけた。
「しかし何で上様は裸で溺れてたんだ?」
独り言のように呟く土方に九兵衛は事の詳細を話した。
上様の手が触れ川に投げ飛ばしてしまったと。
原因が九兵衛だとわかると土方は、このまま帰れ、と言う。
「柳生家の若がこんな事に関わっていると知れたら名前に傷がつくだろうが。後は適当にこっちでやっとくから。」
親切心から言った言葉なのだが土方は九兵衛に睨まれてしまった。
「君は僕を愚弄する気か。自分がした事には自分で責任を持つ。侍として当然だ。」
早足で歩き出した九兵衛の後ろで、土方は溜め息を一つ。
「分かったよ。切腹の時は俺が介錯してやるよ。」
九兵衛の後ろをついて行きながら土方は軽い口調で言う。
「その時は頼む。」
九兵衛は足を止めて振り返り真っ直ぐな目で土方を見る。
そんな九兵衛に土方は、
「そうなんねェように手は尽くすけど。」
と、今度は真剣な表情で言うと煙草を靴で揉み消した。
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