土九(原作)

□人生って先が分からないから面白い
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「それまで無事に生きてられたらな。」

土方の言葉に九兵衛の顔が曇る。
攘夷浪士を取り締まる武装警察真選組。その副長を務める土方には常に危険が付き纏う。今までに死を感じたのも一度や二度では無い。
かつては将軍家指南役をおおせつかっていた柳生家の次期当主、九兵衛にはその事はよく分かっている。自分も有事の際には幕府の為、戦に行く覚悟が出来ている。同じ侍として言っている意味は分かる。
そうでなくても、マヨネーズ摂取量と煙草の本数を思えば、この男、長生きなど出来そうに無い。

しかし。

「そんな事言わないでくれ…。」

九兵衛の声は僅かに震えていた。それでも土方は言葉を続ける。

「九兵衛、もし俺が死んだら俺の事は忘れろ。」

その言葉は九兵衛の心に、ずしんと音を立てて響いてきた。

「無理…だ。」

「死んでまでお前を縛る気ねーよ。さっさと次見つけて幸せになれ。」

真剣な顔付きで言う言葉が、土方の優しさから出ているものだという事はひしひしと感じている。彼のそういった優しさに、九兵衛は惹かれたのだから。

(でも君じゃ無いと僕は幸せにはなれそうも無い。)

土方の言葉に反論もせず、九兵衛は残り少なくなったカツ丼を全て口に入れ「ごちそうさま。」と両手を合わせる。それが合図のように既に完食していた土方は、煙草を一本取り出して口にくわえた。


「僕には夢があるんだ。」

努めて明るい声を出す九兵衛の言葉に、煙草に火をつけようと少し俯いていた土方は、手を止め九兵衛の顔を見る。

「どんな夢だ?」

「歳をとってお婆さんになったら、陽のあたる縁側でお茶でも飲みながら、大好きな人と昔の話をするんだ。」

九兵衛の瞳はどこか遠くの方を見ている。
土方は煙草に火をつけると煙を深く吸い込み、ゆっくりと吐き出した。

「その時隣りには君に居て欲しいよ。」

そう言って少し照れて赤くなる九兵衛。

「…プロポーズみてェだな。」

土方の言葉に九兵衛の顔は益々赤くなる。

「そっ…そういうつもりでは…。」

慌てている九兵衛を愛しいと思い、その夢を叶えさせてやりたいと、土方は心の奥で決意していた。






「わかったよ。何が何でも生きてやるよ。しわくちゃのハゲジジィになるまでな。」

「やはりハゲるのか…。」

「………。」



その後この話題について、二人が話をする事は無かった。





【終】



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