その他
□人の話は最後まで聞け
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「十四郎さん!!」
ミツバは息を切らしながら近藤邸の庭へとかけ込んだ。
「ちょッ!ミツバ殿!!そんなに走ったら体に障るゥゥゥ!!」
庭で掃き掃除をしていた近藤が慌てて心配そうに声をかけるがミツバはすぐに、
「十四郎さんは?!」
と切羽詰まった声をあげた。
「トシなら風呂……。」
「お風呂掃除ですね!!」
近藤の答えを最後まで聞かずに縁側から家の中に入っていく。
「十四郎さんッ!!」
一直線に風呂場へ向かうとすぐに引き戸を開けた。
眼前にモワッと白い湯気が襲いかかってくる。
その向こうに人影。
三秒後、
「キャアアアァァァアッッ!!」
近藤邸にミツバの叫び声が響き渡った。
体の泡を流していた十四郎は突然開いた引き戸の向こうに密かに思いを寄せる人物がいて、おわァァァ!!などと素っ頓狂な声を上げながら湯船の中に飛び込んだ。
「ごめんなさいッ!!」
ミツバはくるりと背を向けると引き戸も閉めずに走り去っていった。
「………。」
湯船の中の十四郎は顔が真っ赤だ。
見られた?
いや、湯気たってたし…、見えてねェよな…。
ちゃぷんと音をたてて湯の中に肩まで沈める。
長い黒髪がゆらりと水面に広がった。
「土方ァァァァァア!!姉上に何しやがったァァァァァア!!」
大地を揺るがすような怒号と振動とともに総悟が風呂場へ駆け込んできた。
湯船に浸かる十四郎はなんもしてねェよ、と小声で反論するがグイッと頭を抑えつけられ湯の中に沈められた。
「やめッ…!」
ゴボッゴボッゴボボボボ……。
総悟は着物が濡れるのも構わずに十四郎をあらんかぎりの力で押し沈める。
十四郎はもがきながらなんとかその手から逃れて水面に顔を出し立ち上がった。
「テメェは俺を水死させるつもりかァァァァァア!!」
「そうでさァ。姉上に何しやがった!!この変態野郎ォォォォォ!!」
「なんもしてねェって言ってんだろが!!」
「それじゃあさっきの姉上の叫び声はなんですかィ?」
「お…、俺が知るかァァァァァ!!っつーか元はと言えばてめェのせいだろうがァァァァァ!!」
総悟は再度十四郎を湯に押し沈めようとする。
十四郎も負けじと暴れまくる総悟を抱え湯船に引きずり込んだ。
そしてついに濡れて重くなった着物を脱ぎ捨てて裸になった総悟と元々裸だった十四郎の二人は、風呂場での喧嘩に気づいた近藤が止めに入るまでお互いを湯の中に沈めあっていたのだった。
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