その他
□嘘も優しさのひとつ
1ページ/6ページ
『十四郎さんの側にいたい。』
姉上はそう言ったのに、
『知ったこっちゃねーんだよ、お前のことなんざ。』
あいつはそう言った。
あいつは姉上を振ったんだ。
江戸へ発つ日が近づいていたある日の午後、俺が家で昼寝をしていると、姉上を病院に連れて行ったと近藤さんから電話があった。
最近は発作も無く、とても元気だったのに。
「姉上!!」
俺は病室のドアを開けると中へ飛び込んだ。
病室には近藤さんもいて、姉上はベッドで横になっていたが俺の顔を見ると笑顔を見せた。
「そーちゃん。心配掛けてごめんなさいね。たいしたこと無いのよ。」
顔色も良く元気そうだ。
「近藤さんと十四郎さんが大袈裟なのよ。病院に来る程じゃ無かったのに。」
「いやいやちゃんと診てもらっといた方がいいよ。」
近藤さんが心配そうにそう言った。
買い物に行った姉上が気分が悪くなりうずくまっていたところに、近藤さんと土方さんがたまたま通り掛かって、病院に連れてきてくれたそうだ。
「念の為今日と明日入院して明後日には退院できるから。」
姉上がいつも通りの優しい笑顔を俺に向ける。
よかった。
病室にあいつがいないので近藤さんに聞いてみる。
「土方さんは?」
「一緒に来たんだけど用事があるって、病院に入らずに帰っちゃった。」
ふん。振った女がどうなろうと知ったこっちゃねーってわけですかィ。
「総悟、俺ちょっとかわや。」
そう言って近藤さんは病室を出て行った。
・