その他

□言葉でしか伝わらない事もある
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「土方さん、少し話があるんだけど…。」


ある日の放課後、俺が帰り支度をしていると、突然同じクラスの志村妙に声を掛けられた。

「何の用だ?これからクラブがあんだけど。」

俺は鞄に教科書を入れる手を止めずに返事をする。

「大事な話があるんです。サボって下さい。」

手を止めて妙の顔を見ると、にっこりと微笑んでいた。



二人で学校近くの喫茶店に入り、コーヒーとアイスクリームを注文する。

「話って何だァ?」

俺が尋ねると、妙は水を一口飲んで溜め息をついた。

「単刀直入に聞きますけど、好きって言ったことありますか?」

「?」

突然何言ってんだァ?こいつは…。本当に単刀直入だな。


「ミツバちゃんに言ったことありますか?」

あぁミツバのことか…。

「付き合ってるんだから当たりめーだろうが。」

と答えつつ、頭の中で回想してみる…と…、




あれ?





もしかして…、






一度も無い?





俺が告白した時は…。




『付き合ってくれねーか?』

『はい…。』





だけだったっけ…。





「無いですね。」

俺の表情を見てか、親友であるミツバに聞いたのか、妙ははっきりと言った。


でも好きだから付き合っているわけで、





「安っぽいドラマじゃあるめーし…。連発する言葉じゃねェだろうが。」

俺は運ばれてきたコーヒーを砂糖もミルクも入れていないのに、スプーンでカチャカチャとかき混ぜた。

「女の子はみんな月9のような恋がしたいのよ。」

妙はアイスクリームを一匙口に運んで話を続ける。

「あなたも少し近藤さんを見習ったら?」

近藤さんは俺の親友だが、妙のことが好きで毎日のように『好きだ!愛してる!!結婚してくれェェェ!!!』とストーカー行為を働いている。一方妙の方は、その気は全く無いのだが。

「あの人はやり過ぎだろうが。」





ミツバは妙に相談したらしい。不安なんだそうだ。言葉も無く、行動も起こさない俺のことが。

俺達の間には、んなもん必要ねェと思っていたのは俺だけだったのか。




「ミツバちゃんはこんなやりにくい男のどこがいいのかしら。」

「随分はっきりと言うじゃねーか。」



妙は最後の一匙のアイスクリームを口に入れると「ごちそうさま。今日のことはミツバちゃんには黙っていて下さいね。」と言って喫茶店から出て行った。




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