土九(原作)

□過去があるから今がある
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ミツバ、お前は幸せだったのか?


肺を患いストレスに弱いお前を、俺達でさえどうなるか分からねェ不安だらけの江戸行きに、連れて行くことが出来なかった。
住み慣れた武州の田舎で、お前より剣をとりいつ死ぬか分からねェ俺では無く、誰かと普通に結婚して餓鬼産んで、一年でも、ひと月でも、たとえ一日でも長く生きて欲しかった。
一日でも長く、笑っていて欲しかった。

そう思って冷たく突っ張ねたが、それは俺のエゴだったんじゃねェか?






「寒ィ…。急に冷えてきたな。」

書類仕事ばかりで疲れた頭を冷やそうと、自室から縁側に出たら思いのほか空気が冷たくて肩がぶるりと震えてしまった。
ふと空を見上げると余りにも月が綺麗で、俺は縁側に腰掛けて新しい煙草に火をつけた。

あの日━━ミツバを突き放した日も今日のように月が綺麗だった。

そんなことを空を眺めながら考える。

そして浮かんできたのは九兵衛の顔。

屯所であいつを抱き締めてから一度も会っていない。

俺だって言い寄られて女と付き合ったこともある。だがどれも本気じゃなかった。

もう二度と恋などしないと心に決めたのに、九兵衛のことが頭から離れねェ。

今どこにいるのだろう。
誰といるのだろう。
何をしているのだろう。
もしかして万事屋と…。

そう考えるだけで嫉妬に狂う。

俺としたことが、一体どうしちまったのか。



その時、

「土方さん、まだ仕事中ですかィ?」

頭上で総悟の声がした。
俺は背後に立っている総悟をちらりと見るとすぐに視線を月に移す。

「そうだけど。」

ぶっきらぼうに言い放った俺の目の前で白い封筒がゆらゆら揺れた。

『土方十四郎様』と達筆な字で書かれてある。その見覚えのある筆跡に誰からのものかすぐに分かった。ほとんど反射的に手に取ろうとすると、それはスッと視界から消えた。

「姉上からの手紙でさァ。」

振り向くと総悟は封筒の裏側を見せている。
左下にはこれまた達筆な字で『沖田ミツバ』と書かれていた。

「姉上の病室の引き出しから出てきたんでさァ。」

「何で今頃!」

ミツバが亡くなってから既に三ヶ月近くたっている。

「あんたには見せねーで捨てちまおうと思ってたんですがねェ。」

総悟は大きく溜め息をつく。

「あんたが元気ねェとこっちも殺る気が出ねーんで。あっ、言っときやすが中見るような野暮なこたァしてやせんから。」

そう言って総悟は俺に手紙を手渡した。

「それじゃあ俺はこれで。」

廊下を歩いていく総悟の背中に俺は一言。

「明らかに一度開けた跡があんだけど。」

「気のせいじゃねーですかィ?」

じゃあ、と右手をあげると総悟は振り返らずに廊下を進んで行った。








「土方さん、夕方のドラマの再放送が始まっちまいますぜ。」

「やべェ、録画予約すんの忘れてた。」

「さっさと済ませやしょうや。」

「そうだな。」

ここは攘夷浪士共が定宿にしている旅籠。

俺は刀を鞘から抜くと振り返り隊士達に目で合図を送る。緊張の一瞬。
襖を開けると同時に叫んだ。

「御用改めであァァァる!!」

浪士共は逃げもせず、こちらに向かってくる。

敵を斬る。

斬って、斬って、斬って、斬って━━━━、








斬られた。




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