土九(原作)
□男は女の涙に弱い
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九兵衛のバベルの塔建設阻止の為行われた合コンは、突然の事故によりお開きとなってしまった。お妙の友人は、
「お妙ちゃんまた呼んでねェ。」
「今度はもっとイイ男にしてよ〜。」
などと口々に言いながら帰って行き、残されたメンバーは、九兵衛、銀時、神楽、新八、お妙、近藤、あやめの七人。桂とエリザベスの姿はもはや無い。
「あの事故何だったんでしょうね。店側から詳しい説明も無かったですし。」
と新八は首を傾げる。
「せっかくのご馳走も台無しアル!!こんなことなら全部飲み込んどきゃ良かったネ!!」
と神楽は怒りを露わにしている。
「まあまあいいじゃねーか。おかげで料金只になったし。それに…。」
銀時は隣にいる九兵衛をちらりと見る。
「大きな成果もあったしよ。」
合コンが行われていた空飛ぶ屋形船が突然大きく傾き、船から海に落ちそうになった九兵衛の手を掴み助けた銀時。
一度は銀時を投げ飛ばした九兵衛だったが、その後海に落ち行く銀時の手を掴むことが出来たのだ。
「もしかして九兵衛が触れる男って俺が一番乗りじゃねーの?」
少し自慢気に銀時は話す。
しかしそれ以前に触れられても嫌悪感を感じず、触れることが出来ると思った男が既に一人いることを、ここにいる者は誰一人として知らない。
「さーてと、ババアのところで飲みなおしでもすっか。」
銀時が皆を『お登勢』に誘う。
「みんなは二次会でも何でもして盛り上がればいいわ。私と銀さんはホテルで盛り上がってSMプレイ…。」
あやめがそこまで言うと、
「弟達の前で何言い出すんじゃアア!!」
とお妙の蹴りが飛んできた。
そこへ、
「お前ら、こんな所で何やってんだ?」
と、突然聞こえてきた声に九兵衛の心臓が跳ねる。顔を上げるとその声の主は隊服に身を包んだ真選組副長、土方十四郎。
見回りの途中らしい。少し離れた所にパトカーが止まっている。
「怪しげな連中がいると思ったらてめーらか。」
煙草の煙を吐き出しながら土方は銀時を睨んでいた。そのまま鎧兜で固めている九兵衛に視線を移す。
「九兵衛、その格好は何だ?お前はどこの合戦に参加するつもりだ?」
「合コンは男と女の合戦だと妙ちゃんから聞いたのでな、用心してきた。」
九兵衛は真面目な顔で答える。
「合コン?近藤さん、あんた昼間っから姿見えねーと思ったら仕事サボって合コン!?」
「ちっ…違うぞ、トシ!!今日は桂を追ってだな…。」
慌てて言い訳をする近藤に土方は冷たい視線を送る。
「で…、桂はどこにいるんだ?」
「それがその…、後一歩というところで逃げられて…。」
土方は大きく溜め息をついた。
「いい加減にしてくれよ、近藤さん。てめーらも餓鬼がうろつく時間じゃねェだろ。さっさと帰れ。」
ぶっきらぼうにそう言うと土方は、皆に背を向けてパトカーに乗り込んだ。
「案外元気そうじゃねェの。もっと落ち込んでるかと思ってたわ。」
走り去るパトカーを見ながら銀時が呟く。それに近藤が答える。
「仕事している時はな。以前と変わらんよ。でもたまに見てらんねェようなツラしている時がある。」
「後悔してんのかねェ。意地張らずに最後くらい会いに行ってやりゃあ良かったのによォ。」
「トシにはトシの思いがあったんだろう。俺達がどうこう言えるもんじゃねェよ。」
「そりゃそうだけど!ゴリラは見てねーからそんなこと言えんだよ。あいつが病院の屋上で激辛煎餅食いながら泣いてたの見てねェから。」
銀時はその時のことを思い出し悲しげな表情を浮かべる。
「しっかしいい女だったよな。味覚はかなり問題ありだったけど。俺だったらぜってー手放さ無いけどね。」
そう言う銀時に近藤は語気を強くする。
「だからトシはトシなりにミツバ殿の事を思ってだな…。」
何の話かよく分からなかったが二人の会話を聞いていた九兵衛は、ミツバという言葉に反応を示す。
「ミツバ殿って沖田君の姉上様の?」
「九兵衛さん知ってたの?」
驚いている近藤に九兵衛はこくん、と頷いた。
「以前山崎君に聞いたんだ。江戸に出て来たのだろう?」
「そうなんだが…。」
近藤は九兵衛にミツバがもうこの世にいないことを告げた。
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