土九(原作)
□人生って先が分からないから面白い
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薄い桃色の着物に袖を通した柳生九兵衛は、恋人である土方十四郎との逢瀬に胸をときめかせながら、待ち合わせ場所である『でにいす』にて、冷たい水で喉の渇きを潤していた。
約束の時間を少し過ぎた頃、窓の外に濃紺の着流し姿の愛しい人を見つけ、自然と口元が緩む。
土方は「待たせたな。」と言うと九兵衛の向かいに座り、店員に『カツ丼土方スペシャル』という名のマヨネーズたっぷりカツ丼を注文した。
九兵衛は「またか。」と内心思いながら声に出さず、普通のカツ丼を注文する。マヨネーズを気にしていては、土方の彼女はやっていられない。
「しっかしこの間のは何だったんだろなァ。」
土方は煙草に火をつけながら、最近江戸で起こった奇妙な事件について話を始めた。
「みんなジジィババァになっちまって…。突然元に戻るしよォ。」
煙草の白い煙がゆらゆらと漂うのを見ながら九兵衛は、突然巻き込まれたその珍事件の事を思い返していた。
「…その時僕は竜宮城にいたんだ。」
「竜宮城って…あの竜宮城?やっぱセレブは違うな。」
「いや自分で行った訳では無い。悪い漢にひっかかっていた娘を助けたら、その父親に招待されたのだ。…お妙ちゃんも一緒だった。あと新八君と銀時君、神楽ちゃんに長谷川さん、それと桂く…。」
「桂ってあの桂ァァァァァ?指名手配中の?なんでアイツが?」
真選組副長である土方が追っている攘夷浪士、桂の名前が出て自然と声が大きくなる。
「なりゆきだ。」
「どんななりゆきだよ。」
「でも桂君と銀時君のおかげで元に戻す事が出来たのだぞ。」
九兵衛は竜宮城での出来事を、土方に話して聞かせた。
「ほーそうだったのか。」
九兵衛の話を、運ばれてきたマヨカツ丼をかき込みながら聞いていた土方は、納得した、という風に返事をする。
「君も老人になったのだろ?どんな風だったんだ?」
「あっ…あんま変わってねーよ。」
九兵衛の問い掛けに少しうろたえる土方。九兵衛はそんな土方を片方だけの目でジッと見ると、僅かながら目が泳いでいる。まずは遠回しに。
「そうか?そういえば銀時君は身長が半分位に縮んでいたぞ。」
「いい気味だ。」
会えば子供のような喧嘩ばかりしてしまう銀時のそのような姿を想像し、土方は口角を上げてニヤリと笑みを浮かべた。
そんな土方に今度は直球で。思っている事を正直に口にする。
「まさか…メタボ…。」
「なってねーよ。」
静かに突っ込まれる。違うようだ。
「じゃあ…ハゲてたりして…。」
「ハゲてねェェェェェ!!」
ハゲしく突っ込まれる。
「図星か…。」
「違うって言ってんだろがァ!!まぁ山崎はバーコードになってたけどよ。」
土方は話題を山崎にすり替えた。
九兵衛は、分かる、とうんうんと頷いてカツ丼を口に運んだ。
「彼は苦労しているからな。でもいずれ分かる。あと何十年かすれば…。それまで楽しみにしているよ。」
九兵衛はやがてやってくるであろう未来を想像し、幸せを感じていた。
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