土九(原作)

□障子を開ける時は一声かけるべし
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「おい山崎、総悟見なかったか?」

土方は真選組屯所内の庭で、すれ違った山崎に声を掛けた。

「沖田さんなら道場の方に行くのを見かけましたけど。」

「サボリの総悟が道場?雨でも降るんじゃねーか?」

土方は煙草の煙を大袈裟に吐き出すと、雲一つ無い真っ青な空を見上げた。







道場からは、激しく竹刀がぶつかり合う音がする。
土方は短くなった煙草を地面に落とし靴でもみ消すと、引き戸に手を掛け静かに開けた。


神楽に折られた足もすっかり治った総悟と竹刀を交わらせているのは、黒髪に白い上着を羽織った隻眼の小柄な男。


ではない。


女。



柳生家の次期当主、柳生九兵衛。

意外な取り合わせに、土方は首を傾げる。


道場の引き戸を背にしていた九兵衛は、打ち込んできた総悟の竹刀を軽い身のこなしでひらりとかわし、総悟との位置を反転させる。
その途端、開け放たれた道場の引き戸が視界に飛び込んできた。と同時にそこに立つ男、真選組副長土方十四郎の姿も片方だけの黒い瞳に映される。
総悟の動きに神経を集中させていた九兵衛の心に、僅かな隙ができる。その隙を即座に感じとった総悟の声が、道場に響き渡る。



「隙ありィィィィィ!!」

「うわァ!!」

鳩尾あたりを竹刀で突かれた九兵衛の身体は大きく跳ね飛ばされ、道場の壁にドンッと音をたててぶつかりうつ伏せに倒れこんだ。

「大丈夫か!?」

土方はすぐさま九兵衛の元に駆け寄ると、心配そうに声を掛ける。

「だっ…大丈夫だ。」

痛そうに顔を歪めながら起き上がる九兵衛。
土方は総悟を睨み付けると大声を上げた。

「総悟!!やりすぎだろうが!!」

「俺は土方さんと違ってフェミニストじゃねーんで。」

総悟が表情を変えずに言うと、土方の目つきが殊更悪くなる。

「何でお前ら二人が…。」

土方がずっと疑問に思っていた事を口に出すと、答えは九兵衛から返ってきた。

「僕がお願いしたのだ。南戸が沖田君が大層強いと言うのでな、興味を持った。流石に強いな。その若さで隊長を務めるだけある。」

九兵衛が褒めると総悟は少し口角を上げて、ニヤッと笑みを浮かべた。




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