小話

□過去拍手文
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「土方君、ごめん。」

土方との待ち合わせ場所である団子屋に約束の時間を三十分程遅れて走って来た九兵衛は、息をつきながら両手を合わせて誤っていた。

「そんなに慌てなくても映画始まるまでまだ時間あるぞ。」

土方はそう言いながらマヨ団子を口に運んでいる。
ほっとした表情で隣に座った九兵衛の雰囲気がいつもと違っていて土方は横目で見やる。女物の着物を着ているのだが。


「今日は髪…、下ろしているんだな。」

いつもは一つか二つに結われている長い黒髪が、何故か今日は結われていないのだ。

「寝坊して時間が無かった。」

「俺が結ってやろうか?」

九兵衛は土方の思いがけない言葉に驚きを隠せない。

「出来るのか!?」

「昔は俺もそれくらい長かったんだ。いつも一つに結ってた。」

土方は昔を思い出したのかふっと口元に笑みを漏らした。

「そうなのか?知らなかった。」

「櫛持ってるか?」

九兵衛のバッグから取り出された櫛とゴムを受け取った土方は、九兵衛の後ろに立った。

「綺麗だな。」

九兵衛の髪を櫛でときながら、土方は小さく呟く。

「とても綺麗だ。」







『あら、十四郎さん。どうしたの?』

『近藤さんに頼まれて総悟呼びに来た。』

『そーちゃんなら道場に…。行き違いになったのね。』

『そのようだな。』

『髪、どうして結って無いの?』

『乱れたからさっき解いた。道場戻ったら結い直す。』

『私が結ってあげる。』

『え?』

『ここ座って。』

『………。』

『十四郎さんの髪…、綺麗ね。』

『そうか?』

『えぇ、とっても綺麗。』

『………。』

『出来ましたよ。』

『すまねェな。』

『ふふふ、どういたしまして。』



あれからミツバに髪を結ってもらいたくて、あいつに会う時は時々解いていったっけ…。







「ほら、できたぞ。」

九兵衛が手鏡を取り出して覗くと髪は一つに結われていた。

「ありがとう。上手だな。」

「また結ってやるよ。」

鏡にうつる土方はどこか遠くを見ていて。

「どうかしたのか?」

「何でもねェよ。」

土方は軽く笑うと九兵衛の髪を優しく撫でた。





土方さんがミツバさんに髪を結ってもらうのは総悟がいない時限定で。




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