土九(原作)

□男は女の涙に弱い
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僕がずっとミツバ殿の写真を見ていると沖田君は、

「見回りがあるんで行きやすが、好きなだけ居てやってくだせェ。」

と言って部屋から出て行った。

その途端、僕の右目から涙が溢れてきた。次から次へと溢れ出る涙を止めることが出来なくて、僕はただただ泣き続けるしか無かった。



「そこにいるのは誰だ?」

突然土方君の声がして驚いたが黙っているわけにもいかず名を名乗った。

すると開けるぞ、という声がしたかと思うと障子が開いて、着流し姿の土方君が立っていた。

僕は泣き顔を見られたくなくてすぐに顔を背けた。
そして僕に近付こうとした土方君に言い放った。

「ミツバ殿に会いに来ただけだ。しばらく一人にしてくれ。」

土方君は何も言わずに部屋を出て行った。





それからどれくらい経ったのだろう?
ようやく落ち着いた僕は涙で濡れた顔を綺麗に拭いてミツバ殿に手を合わせた。


僕が沖田君の部屋から出ると土方君が縁側に座って煙草を吸っていた。
傍らに置いてある灰皿には既に短くなった吸い殻が何本か入っている。

「ずっとここにいたのか?」

声をかけると土方君は僕の方へ顔を向けた。
少しやつれたように見える。

「今日は休みだ。どこで何しようと俺の勝手だろうが。」

「それもそうだな。」

僕は土方君の顔を見ていられなくて足早に帰ろうとした。

「家に帰るのか?」

「そうだが。」

僕がそう返事をすると彼は左手の中指で自分が座っている隣の床をトントンと叩いた。

「ちょっとここ座れ。」

僕が立ち尽くしていると。

「そんな顔で家に帰ったら過保護なじーさんや親父さんがうるさいんじゃねェか?」

ああそうか。確かに泣きすぎて目が痛い。腫れて酷い顔をしているのだろう。おじい様や父上もだが東城に見つかったらうるさくて仕方が無い。せっかく東城がロフトに行った隙に屋敷を出て来たというのに。

僕は言われた通り隣りに座った。

「誰に聞いたんだ?」

そう言って土方君は煙草を灰皿に押し付けた。

「近藤さんだ。ほらこの間の合コンとかいう集まりの時に。」

「ああ、あん時か。」

僕は黙っているのが悪い気がして本当のことを言った。

「君とミツバ殿のこと…、聞いてしまった。武州でのこととか…ミツバ殿の婚約者のこととか…。すまない。」

「別に構やしねェよ。」

頭を下げた僕に土方君はそう言った。

それから二人共何も発しず、ただ並んで座って庭を眺めていた。


土方君は後悔しているのだろうか?


「君は優し過ぎる。」

気が付けば僕はそう言っていた。心の中で言った言葉がふと口から出てしまったという感じだった。

「俺が?笑わせんじゃねーよ。あいつの気持ち知りながら酷いこと言って突っ張ねて、挙げ句に婚約者を斬ったんだぜ。」

そう言う君はやはり悔いているのか?

「でもそれは全てミツバ殿の為にしたことだろう?君もミツバ殿のことが好きだったのだろう?好きなら傍にいたい、護りたい。そう思うのが普通だろう。僕だってそうだ。だから妙ちゃんにあんなことをしてしまった。妙ちゃんの幸せを考えずに。
自分の感情をストレートに出す方が楽に決まっている。でも君は自分の気持ちを押し殺したんだ。それがどれほど辛いことか僕にはわかる。僕にはそれが出来なかったのだから。」




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