アマリリス

□最終章 アマリリス
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目が覚めると、そこはアマリリスの自室
いつもの部屋のいつものベッド
時計を見ると、午前零時を越えていた
今日は12月20日
私、藤崎シオンが2年前に目を覚ました日

「やっぱり夢…だったんですね。」

伸びをしようとベッドから上半身を起こすと、なんだか体が温かい

「…ぁれ?」

それにちょっとクラクラする
まるでお酒を飲んだみたいに…

「――お酒?」

唇に人差し指を当てて感触を思い出す

うん――

「夢じゃ…ない。」

途端に笑いがこみ上げてきた
なんだか嬉しい
私、さよならのときにちゃんと笑えたのかな?

「ん、笑えたよね。」

今もこんな風に笑えてるんだし


*-*-*


なんとなく眠れなくなった私は、イチゴオレでも飲もうかとキッチンに向かう
途中、事務所でデスクの整理らしきものをしているライカさんを見つけた
なんかむしろ散らかってる気がする

「なんだシオン、寝れないのか?」

なら手伝えと言わんばかりのライカさん

「…っと」

ふと時計を見ると、ライカさんは作業を止めてこっちを見た

「もうこんな時間か。」

そして優しく笑いかけた
いつもは鋭い目つきも、この笑顔のときは柔らかくなる
たぶん私が男の人なら惚れるだろうなー、というような笑顔でライカさんは続けた

「誕生日おめでとう、シオン。」
「ありがとう――ございます。」

今のはちょっと不意打ち
今日は、ライカさんにとっての私の誕生日だったんだよね

「ほら、プレゼントだよ。悪いな、高級なレストランとかに連れて行けなくて。」
「いえ、ありがとうございます。でも、どうせだから今からケーキでも作りましょうか?」
「待て待て待て。主役が料理なぞしてどうする。ケーキくらいなら私でも作れるさ。」

言いながら、ライカさんは腕まくりをはじめた
なんか、催促したみたいで申し訳ない気分になる

「お前はプレゼントでも開けてみろ。絶対に気に入るから。」

言われて私は視線をプレゼントへと落とす
そんな事を言われると、開けたくなるのが人間だ

「なら…お言葉に甘えますね。」

そして、開けてみた
中身は――

「白いロングコート…?」
「あぁ、特別製だよ。サクヤが着ていたローブをいじくって普通に着れるようにしてみた。汚れにくく破れにくい魔術加工付きだ。多少の魔力補正もある。」

それにな、とライカさんは続ける

「それには生き返ってから再び消えるまでのサクヤの想いがちゃんと詰まっている。」

服に限らず、愛用していた道具には持ち主の想いが宿ると云う
なら、サクヤの服にはサクヤの想いが――
私の中には既にサクヤの想いがある
けどそれは、あの時までの――私が彼を殺すまでの想い
それから先の想いは、このコートに

「ロングコートにしたのは、サクヤからの要求だよ。あいつが一昨日夢に出てきてな、なんでもロングコートをシオンにちゃんと返したいんだと。」

思わず笑ってしまった

「コート、ありがとうございます。彼、ライカさんの夢にも出てきたんですね。」
「私の夢にも、だと?ならお前も――」
「はい。」

もっとも――

「私の場合は、夢じゃなかったみたいですけど。」

窓から空を見上げる
澄み切った夜空に浮かぶ丸い月

「ライカさん」

私は、ライカの名前を呼ぶ

「3月になったら…あの桜、見に行きませんか?」

桜花さんが最後に咲かせたあの桜
サクヤの魂が開花させた巨大な桜

「そうだな、何日あたりにする?」

それに私は、笑って答えた

「15日、私が生まれた日なんです。」

そう言えば、私の本当の誕生日についてライカさんにちゃんと話したのは、はじめてかもしれない
普通の桜なら、まだ咲いてないだろうけど…

「そうだな。あの桜ならちょうど満開だろうな。」

ライカさんは、微笑んで同意してくれた
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