アマリリス

□最終章 アマリリス
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それからいろいろな事を話した
私がシュウの元を抜けてからの事
サクヤの魂が桜花さんに拾われてから再び消えるまでの事
面白かったり、怖かったり悲しかったり
こうして話してみると、本当にいろいろあったんだなぁ、って思う

「なんか…こんなに昔の事話したの、久々かも。」
「俺に至っちゃ人と話すのが久々だよ。」

笑っていたサクヤの顔が少し陰った気がした

「あのさ…」
「何?」

気づかない振り
どうせ聞いたって誤魔化されるんだから

「その…悪かったな、梨紅の事。」

そっか、サクヤも気にしてたんだよね

「大丈夫…だよ。たしかにアレがベストな選択じゃなかったし、他にも方法はあったんだと思う。」

でもね、サクヤ

「梨紅姉さんは…ありがとうって言ってたよ。」

言い終わった私の髪をサクヤが撫でた
疑問に思って自分の状態を確認すると――

「私…泣いてる?」

彼は無言で私の肩を抱き寄せた

「ねぇ、サクヤ…?」

それで、決心した
本来なら一番始めに聞くべき事
でも、これを聞いたら全部終わっちゃうから――

「どうして…」

残ったお酒を一気に喉に流した
慣れない事はするもんじゃないね
体の中がポカポカして、何かがこみ上げてくる

「どうしてサクヤは、此処にいるの?」

どうして、もう此処には居ない筈の貴方が――

「約束、したからな。」

いってらっしゃい
行ってきます

これは、再開の約束だろ?

なんて、そんな笑顔で言わないで
その笑顔を見てると、この先が言いづらくなる
でも、言わなくちゃ

「これは…夢だよね?」
「どうかな?」

彼は、私の予想とは少し違った答え方をした

「蓮城サクヤの幽霊が、お前の夢の中に侵入したのかもしれないぜ。」

またその笑顔
どこか悲しそうな、でも無理して笑っているわけではない、そんな笑顔

「なんせここは、お前との思い出の丘だからな。多少の不思議は有り得ちまう。」

サクヤの顔が近付いた
やめてよ
そんな事されたら別れが辛く――

「ん…」

唇にふわりとした柔らかな感触
実際には一瞬だったんだろうけど、体感時間は割と長かった気がする

「じゃあな、シオン。さよならだ。3月のお前の誕生日には、俺の桜でも見に来いよ。」

意識が少しずつ遠のく
サクヤと会えるのはこれが最後なんだな、と実感した

―またな、シオン―

いつも言ってくれた“またな”
今回はもう“さよなら”なんだって――

「あ…」

やだよ
また会いたい
けど、それじゃ君が困るだろうから

「うん、さよならサクヤ。」

私、しっかり前を向いて歩くよ
君が居た何よりの証は、君の想いは全部私の中にあるんだから

そうして私は、意識を手放した
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