アマリリス

□第8章 桜舞い散るその前に
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2010年4月11日



桜もそろそろその役目を終えようという時期に、奇妙な事件が街を襲った
ここ数日新聞やニュースはその話題で持ち切り
当然、探偵事務所アマリリスにもその事件は伝わった

「集団昏睡事件…ですか。」

イチゴオレを飲みながらテレビを眺めているのは、この事務所唯一の従業員である藤崎シオン

「ふむ…こうも連続で集団昏睡が起きると流石に怪しいな。否、もともと怪しかったか。」

資料を整理していた手を止め、それに答えたのは所長である浅霧ライカである
テレビに流れているニュースの内容は中学校で生徒職員全てが昏睡状態に陥ったというもの
この事件は4月に入ってからこれで3件目
一度目は病院の近くの公園
二度目は屋内プール
どちらもその場に居合わせた者全てが昏睡状態だが、命に関わるほどの事はなく、被害者の体内から有害物質は検出されなかったらしい
呼吸の乱れも無く、目が覚めた者もちらほらいる
未だ眠り続けている人も多いが、皆直ぐに目を覚ますだろうというのが病院側の見方だ

「全く…正に春眠暁を覚えずというやつだな。」
「けど、放っておいて街中眠らされちゃったらたまりませよね。」

そう言うとシオンは立ち上がった

「調べに行くのか?」

ライカの問いにシオンは頷く

「そうか。なら私なりの分析結果を話そう。今回の集団昏睡は能力者の仕業だ。目的は不明だが、昏睡の原因は“精神の一部”が削りとられた事だろうな。」
「精神の一部って…それ、マズいんじゃないですか?」
「いや、そう大きな問題ではない。一部と言ってもほんの少量だ。それに、精神は時間はかかるがちゃんと回復する。そうだな…献血程度の感覚でいいだろう。」

なるほど、とシオンは納得すると適当に上着を羽織った

「ありがとうございます。それじゃ、行って来ますね。」

そしてシオンは事務所の扉に手をかけた

「あぁ、いってらっしゃい。気をつけてな。」

ライカの暖かい言葉を背中に受けて
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