アマリリス

□最終章 アマリリス
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2010年12月19日


ここはいつか約束した丘
月だけが照らす夜の丘
私――藤崎シオン――はその丘をゆっくりと登っていた
丘の頂上には見覚えのある人影

「シオン…か。」

懐かしい声
私は彼を見て、小さくはにかむ

「こんばんは、サクヤ。」

それ以外に言葉が見つからなかった
他にいろいろ話したい事、あるはずなのに
なぜだかそれで満足している自分がいる

「んなとこに突っ立ってないでコッチこいよ。月でも見ながら飲もうぜ?」

そう言うとサクヤは日本酒を取り出した
私が何か言う前に、サクヤは二人分のグラスに日本酒をつぐ

「誕生日祝いだ。」
「誕生日、3月ですけど?」
「んじゃ、訂正。お目覚め祝いだ。」

どうあっても酒を飲ませたいらしい
まぁ、明日が誕生日ってのも強ち間違いじゃないし…
尤もそれは、私とライカさんにとっての意味だけど

「わかりましたよ…」

私はサクヤから日本酒を受け取った
まぁ、たまにはいいかなー、と思ったり

「最近どうだ、シオン?」
「また突然ね。」

とりあえず思った事を言った
お酒を一口

「最近か…ライカさんに整理整頓って言葉を教え込みたいって本気で思った。」

うん、これは本気
ライカさんのデスク、ホントにブラックホールなんだもん

「あの人片付け苦手そうな顔してるもんな。」

カラカラと笑いながらサクヤは相槌を打った

「私の苦労も知らないで…ライカさんは見た目以上に片付けしないよ。」
「そりゃ大変な事で。」

コイツ…自分が無関係だからって他人事のように

「それ以外は特に何も。変わった事件もないよ。」
「そっか。そりゃ良かった。桜花の件でシュウ関連の一連の事件は落ち着いたってわけだ。」

私はそれに頷いた

「なんか…考え過ぎかもしれないけどさ。」
「ん?」

なんとなく口を開く
それは、自分の考えを誰かに聞いて貰いたかっただけかもしれない

「全部、桜花さんの思い通りに事が進んだんじゃないかなー、って。」
「そりゃまたどうして?」
「だって、結局シュウに世界の越え方を教えたりしたのは桜花さんだし…私の力について一番詳しかったのも桜花さんだった。」

月を見上げて続ける

「私がライカさんと会ったのも、シュウからの指令があったからだし、それをそそのかしたのは桜花さん。」

私は、今までの事を懐かしむようにポツリポツリと話し出した

「梨紅姉さんに私がシュウと関わっている事を告げたのも桜花さんだったみたいだし、船上パーティーで現れたファントムシリーズを操っていたのも桜花さん。」

「龍也さんを雇ったのも、ファントムシリーズとしてナミを使ったのも、桜花さん。」

ファントムシリーズについては、シュウでは扱えない
あれは、ライカさんが造り出したもの
だから、ファントムシリーズを扱えるのはライカさん以外には、その姉である桜花さんしか有り得ないのだ

「セントラルタワーで龍也さんと私が戦ったとき、私を倒せたはずなのに見逃したのは、私があそこでシュウに負けるのが都合の悪い事だったから。」

話していて、自分でもなんだかよく解らなくなってきた

「それに、桜花さんなら最後に使ったあの術を始めから使っていたら簡単に私たちを殺せたわけだし…」

グラスを傾けてみる

「ギリギリまで使わなかったのは、悪役を演じていたのは、自分があそこで死ぬつもりだったから。そもそも、サクヤの魂を拾ったのも桜花さんだったね。」

サクヤの方に視線をずらす

「研究チームの解散を言い出したのも桜花さんだったらしいよ。もしかしたらあの人は、始めから手を出してはいけない研究だってわかっていて…それで、全てを綺麗に終わらせようとした結果、こんな形になっちゃったんじゃないかな?」

あはは、考え過ぎだよね、と笑った

「だいたいね、私まだ桜花さんを恨んでると思う。せっかく会えたサクヤを消しちゃったんだし…」

まぁ、始めに殺したのは私なんだけど

「けどね、ちょっと感謝もしてる。サクヤとまた会わせてくれてありがとうって。」
「考え過ぎ、か…。案外、そうでもないかもしれないぜ?桜花は時々よく解らない行動をしてたけど、黒幕としてなら納得だ。」

サクヤは意外にも私の考えに賛同してくれた

「あはは、黒幕か。うん、なんかその表現ピッタリだね。この物語の黒幕は桜花さんだったのかも。」
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