アマリリス

□第4章 灼熱の夢
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とっくに使われなくなった廃ビルの一角
そこには、肉の焼ける臭いが充満していた
顔が焼け爛れた6人の死体
その中で2つの人影が動いている

「や…やめてくれ!俺はまだ死にたくない!」

男は両足を焼かれ、尻餅をついて手だけで後ずさった

ジュウ

肉が焼けた音がする
なんてことはない、男の左腕が焼けたのだ

「ひ…ひぃ!」

もう一つの影はゆっくりと1歩ずつ男に近づき、獲物をいたぶるように少しずつ、追い詰めていく
その姿は、狩りを楽しむ捕食者のようだ

「どうして…?あなたじゃダメ。あなたじゃ、アタシの渇きは潤せない。」

捕食者は苦しそうに、こめかみを抑えた

「い…や。苦しいのはやだ。熱いのはやだ。」

だから―
捕食者は男を見つめる
烈火のように燃える朱の双眸に見つめられ、男は硬直した
―あぁ、これが死か―
過度な恐怖は逆に冷静にさせる
男は最期に一つ学んだ
思えば話が上手すぎたのだ
夜、廃ビルを女が一人でうろついている
その噂を聞き、仲間たちと、襲ってやろうと算段しこのビルに入った
たしかに女の影はある
女に飢えた男たちは自らが捕食者と信じ、女を取り囲んだ
そして、気がついた
女の目の前にはスーツを来た男の焼死体があったのだ
その時にはもう遅い
捕食者だったはずの男たちは瞬時に両足を焼かれ、あとはじっくりと、いたぶられながら最期は顔を焼かれて死んでいった
わかっている

「はは…俺が、最後の一人なわけだ」

男は笑うしかなかった
そうでもしないと正気を保てない
しかし、捕食者はそれを許さなかった

「うるさい…耳障り…アタシは、苦しいのに!こんなにも苦しいのに!」

叫び、男の喉を焼く
それでも笑おうとする男からはヒューヒューという音が漏れいた
男はもうとっくに正気などではなかったのだ

「はぁはぁはぁ…いや…ア…タシ…アタ…シ…アタシアタシアタシアタシアタシ…」

否、捕食者も正気とは言い難い

「ダメ…こんな奴らじゃ、ダメなの。アタシの渇きは―」

紫音でしか癒せない
捕食者はそう呟き、踵を返した

「…?」

男は呆気にとられる

助かった、おそらくそう勘違いしたのだろう
とにかく、ビルから出て病院に…
その思考は突如襲った周りからの熱気によって遮られた

「証拠は…燃やさなきゃ」

遠くでそんな声がする
―そうか、ビルが燃えているのか―
男はそこで、考えるのをやめた
顔が灼熱に包まれるのを感じ、俺もあいつらみたいに顔がわからないほど焼かれるのか
これが男の最後の思考だった
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