頂き物
□そばにいるだけで。
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──他には望まない。
他には、何も。
─そばにいるだけで。─
屋根を叩く音が激しさを増す。
とめどなく窓を伝っていく水を見つめながら、望美は本日何度目かのため息をついた。
「…そんなに落胆しなくてもいいだろう」
そんな様子に、九郎は望美より大きなため息をつく。
「だって…」
今日はお互いに仕事も学校もなく、珍しく一致した休み。晴れたらふたりで森林公園にでも出掛けようと約束していたのだ。
…しかし、今日は生憎の雨模様で。
「せっかくのデートだったのに…」
「でー…と…?」
望美の言葉に九郎は首を傾げた。
九郎はこちらの世界に来てまだ日が浅い。
常用の横文字やカタカナ語はいくつか覚えてはいるが、特にこういった、恋愛に関する単語などはまだ頭に入っていないのだろう。
「せっかく二人で出掛けられると思ったのに、ってことですよ」
「…まぁ、そう言うな。俺は一緒にいられるだけでも充分だぞ?」
「──…っ…!」
ぷぅ、と頬を膨らませた望美の頭を軽く叩いて九郎は笑う。
その言葉に、望美は顔を真っ赤にした。