頂き物

□そばにいるだけで。
1ページ/4ページ

──他には望まない。



他には、何も。



─そばにいるだけで。─



屋根を叩く音が激しさを増す。

とめどなく窓を伝っていく水を見つめながら、望美は本日何度目かのため息をついた。

「…そんなに落胆しなくてもいいだろう」


そんな様子に、九郎は望美より大きなため息をつく。

「だって…」

今日はお互いに仕事も学校もなく、珍しく一致した休み。晴れたらふたりで森林公園にでも出掛けようと約束していたのだ。



…しかし、今日は生憎の雨模様で。


「せっかくのデートだったのに…」

「でー…と…?」


望美の言葉に九郎は首を傾げた。



九郎はこちらの世界に来てまだ日が浅い。
常用の横文字やカタカナ語はいくつか覚えてはいるが、特にこういった、恋愛に関する単語などはまだ頭に入っていないのだろう。


「せっかく二人で出掛けられると思ったのに、ってことですよ」

「…まぁ、そう言うな。俺は一緒にいられるだけでも充分だぞ?」

「──…っ…!」

ぷぅ、と頬を膨らませた望美の頭を軽く叩いて九郎は笑う。
その言葉に、望美は顔を真っ赤にした。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ