白昼夢

□真夜中
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真夜中の、できごとでした




「…え?」


今、何て言いました細美さん





「……だから、指輪、忘れてきたんだって」


すまなさそうに俯きながら話す細美さん


どうやら二人おそろいの大事な指輪を仕事で泊まったホテルに置き去りにしてきたようです

「なんで……」


何でそんな大事なものを忘れるの

いくら忘れ物日本代表(←)の細美さんでもありえない


「ひどい、です…」


言葉がつまる


「ごめん…」


あの指輪は私たちの
大事な大事なつながりだったのに



「…なんで外しちゃったんですか?」


聞きたくないことを聞いてしまう


どんな返事がきてもきっと傷つく



「いや、昨日の仕事上あーゆうのつけてんの見られたらややこしくなりそうだったから…」



「…そんなの、細美さんの都合じゃないですか」







…あ、私いま、
すごくひどいこと言った




驚いた様子の細美さんが
こっちを見ている


やばい、泣きそうだ




「もう、いいです
細美さんなんかもういいです」



自分で自分が何をいってるかわからない


こんなこと思ってもない




「…わかった、ごめんな
今日は別々に寝ようか」




視界が滲んだ


あたしはあたしのわがままを
細美さんに撒き散らしただけ


笑って許せればいいのに


なんでいつもこんなに余裕がないんだろう


なんでこんなに……




好きなんだろう




涙がぽろぽろこぼれた


一人で寝るには広すぎるベッド


啜り泣く声が、細美さんに聞こえてなければいいな






ブーブーブー


突然ケータイのバイブが鳴る

「メール…?」


誰だろうこんな時間に…



----------------
from:細美さん
無題

なあ、

----end--------


内容はこれだけ



「え、…え?」


混乱しながらも返事をうつ


--------------
To.細美さん
Re:

なんですか?

----end-------



我ながらかわいくない返事、
素直に謝れればいいのに



変な意地が、そうさせないの







だけど、それっきり
返事がこない


10分経っても20分経っても


(怒らせちゃったのかな…)

急に不安になって、思わず細美さんが寝ている部屋のドアの前まで来てしまった



「…ほ、細美さん」


小さく呼びかける



「……………」


返事がない


(寝ちゃったのかな…)







「…さっきはごめんね、

…………だいすき」




ぽつり、と
ドア越しにつぶやいた


きっともう彼は夢の中




「…ちゃんと、目を見て言えたらいいのにね」



また少し視界が滲んだ


素直じゃなくてごめん、
おやすみなさい



そう言って戻ろうとしたら



ガチャ、




急にドアが開いた



後ろを振り向くと

「…ほ、そみさん…?」


立っているのは大好きな人

「ぶはっ、
おまえ何半ベソかいてんだよ」


と、悪戯っぽく笑うと



「わ、わ!?」


ひょいっと私を抱きかかえて
頬にキスを落とした




涙が止まらない私に



「おいで、」




おまえいないと寂しくて眠れねーよ






細美さんが照れ臭そうに
笑いながら言うから、


嬉しくて、また涙がこぼれた







(どうか神様、今夜だけは素直な私でいれますように)




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