最期之物語之本棚ver.Z

□ヴィン×クラ お題
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ふ、と気になって、ヴィンセントにこれからの事を聞いてみたことがある。

「あんた、どうするんだ?これから、生活」

彼は苦笑して、これがある、と俺に真新しい通帳を差し出して説明してくれた。

「それが私の全財産だ、尤も、最近までは無一文だったが…」

彼は、リーブに頼んで何十年も前の資産が無効になっていないのを証明してもらったらしい。
何気なく開いたそこには、相当額の『タークス』だったときの貯蓄。
神羅兵だった俺の給料とは比べものにならないくらいの『報酬』が予測される金額。通帳をガン見したままの俺を見て、彼は少し気恥ずかしそうに頬をかいて、言った。

「ああ…その、まぁ…棄てるのに惜しいくらいは、ある、だろう?」

いつもの低い、冗談なんか言えなそうな声がそう言うと、何故か別の意味に聞こえた。

「…こっ…これ、に、俺の働いた、金、足しても、あんま、変わん、ない…か?」

こんな金額の前、これを言うのはキツかった。
鼻で笑われたら、俺はただの凡人だ。
ヴィンセントは、少しだけ驚いて、少しだけ思案して、少しだけ、笑って。
俺にキスをくれた。

「あぁ、有り難く、受け取ろう。然らば、お前の金も同義だ、好きに使え」

そう言って、俺に通帳を握らせてしまった。
そして更に、例の声でこんな冗談を言う。
「ふむ。これで私は職無し・一文無し、ついでに職を探せる人の身も持たない。養ってくれる良識人が何処かにいないものか」
しかも、更に酷いことに真顔だった。考え込むように顎まで摩って見せる。
俺の失笑を誘うのは目に見えていただろうに、そんなベタな誘い方、断れるわけもなく。予定調和のように、俺とヴィンセントは小さな貸家を半永久的に借り付けて、一緒に暮らす。
たくさんある金も、俺達じゃ使いようがなくて、結局戸棚にしまったままだけど。2人の金、なんて考えるだけで『繋がってる』って顔がニヤける。

両の手を何時でも繋いでいれる。そんな幸せと、同じくらいに。


幸せを自覚するのはた容易かった。
あの人は、俺を理解ワカっていたし、把握っていた。
その上で、俺を目一杯甘やかして、ひいては、愛して、くれた。
俺の倍はゆうに生きて―半分寝て―俺より広い見識で、とりあえず俺を守ってくれた。
「お前を守ることが、償いきれない罪を償う事になろう」
――とりあえず、お前と居れば、神羅と北条、ついでにセフィロス、ぶっ飛ばせるんだな?――
平たくしてしまえば、そんなことだったろうと思う。そんな関係だったはず。

そこから、どうなってしまったのやら、愛しのガンマンは銃の代わりに俺の手を取る。
一度だけ見たことのある、銃を手入れする姿。その時と同じ様に大切に俺の手を取るのだ。

―――平和になったのだ、と思った。
   彼は罪を償うことが出来たのかもしれない、と思った。
   あんたはもう、俺を離してくれないんだな、と思った。
―――敵は、そこらにのさばってる野生モンスターくらいだ。銃を握る事も少ないだろう。
   きっと彼の罪は消えても、年をとらないその身体は、消えない。ずっと、いれる。
   俺を守ってくれたあんたは、俺を愛してくれるあんたになった。

なんとむず痒いことか!

例えば、愛してる、なんて言葉。
例えば、握る手の暖かさ。

それと、幸せを感じる自分。



(そんな事感じる俺は、やっぱり確かに幸せ。)
(手を握る)

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