銀色狐之本棚

□イヅル×ギン 短編
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空の向こうはきっと楽園
(イヅル→ギン)



檜佐木先輩の斬魄刀が地に落ちた

僕は『それ』を適当にあしらいつつ、軽い疲労を覚えた。

体ではなく、心の疲労。

こんな小事に関わっているべき時じゃない。
イヅル、お前にはもっとやらなければいけない事が有るだろう?

―――僕は、市丸隊長からの命を拝さなければならない。

それを考えるだけで僕の心はたちまち奮える。
性の悪い薬が効いた時の高揚感に似た疼きが身体を犯していく。


早く、早く早く、早く。
あの方の元へ。

下命を拝すのだ。
自らを殺せと、命じてもらおう。
でなければ狂ってしまいそうな『正しい』世界。

あの方の元で塵と成そう。
僕にそんな世界は要らない。
僕にあっていいのはあの方の心のみ。


病に犯された心。
熱に浮された体。

どうしようもない疼きを感じ、身体を抱いた。
掠れた笑い声と熱い息が喉を通る。
危うく自らに佗助を向けるところだった。

堪らず膝をつくと、音のなかった世界に瓦の割れる音が響く。

高く、清く、空に響く。

隊長、隊長、今すぐ貴方の元へ行きたい。
この音は、貴方の元へ響くだろうか。

空を仰ぎその高さに目眩を感じ、
まだ貴方には届かないと絶望しよう。


声に成らない叫びが、
空を震わせた。



――――――――――
(09.11.22 初)
(10.4.19 修正)

呟き より


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