鍵と錠と灰色
□✝Time&Noah✝
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貴女を守る力を手に入れた
いつも私を守ってくれる貴女
今度は私が貴女を守れるように頑張るから
だからこれ以上傷つかないで…。
✝ 時 & ノア ✝
あの後コムイさんと共に戻って来た嘉穂は、「ただいま」と言いながら眠たそうに欠伸をし私の頭を笑いながらド突いた。
「おかえり」と返そうとしたが突然ド突かれた事で「うひゃっ!?」変な声が出てしまったのが恥ずかしい。
ド突かれた場所を抑え私はリナリーの隣で座りながら嘉穂を見上げる。
何を話していたの?と聞くと嘉穂は別段表情を変える事無く「色々。」とだけ答えた。
そして「甘い物が食べたい。」と呟くとアレンもそれに同意し「お腹がすきましたね。」と笑う。
そんな二人を見てか聞いてかジェリーが金槌片手にひょっこりと顔を出す。
「お腹が空いたの?あたしが沢山作ってあげるわよ。あんた達凄い量食べるんだもの。」
まぁ、美味しそうに全部食べてくれるから作り甲斐があるけどね。そう言ってウインクを飛ばすジェリーに嘉穂が親指を立てウインクし返した。
嘉穂って気づくと結構色んな人と打ち解けてるよね、いつも。
「あ、私の部屋無事でした?」
「お?嘉穂と美咲の部屋は何とか無事だったんだがアレンの部屋がな…。」
「…っぷwどんまいアレン。」
「嘉穂、心がこもってません。」
「そう?気のせい、気のせい。アレンの幻覚だよ。」
「…顔が隠し切れず笑ってますよ。」
「ごめんね、僕正直ものだから!(笑。」
そう言ってカラカラ笑う嘉穂。
そんな嘉穂にアレンやリナリー達がが苦笑する。
「…まぁ、半分冗談として。」
「冗談ですか。」
呆れたように言うアレンに嘉穂がまぁまぁと言いながら、ポムリとアレンの方に手を置く。
「なら、アレン君よ。」
「?」
「僕の部屋に来る?勿論、部屋が治るまでだが。」
「「「「「!?」」」」」
「言っておくけど…。」
「「「「「「?」」」」」」
「ベットは僕のね。布団は持参で宜しく。流石に二人であのベットはきついし。」
「「「「(そこ!!!???)」」」」」
「…嘉穂なんか違う!なんか違うよ!!」
美咲の言葉に嘉穂がニカリと笑い
「まぁ、半分冗談だけどね。」
「「「「……。(半分本気だった!!)」」」」
色々と爆弾を落としていった当の本人は何事もなかったかのように皆に背を向け歩き出す。
その場に居た者たちがポカンとその背を見送る中、いち早く我に返ったのは美咲で。
「あ、嘉穂何処に行くの?」
美咲の言葉に嘉穂が首だけ振り返る。
「…、動きやすい服に着替えてくる。それから作業手伝います。」
そう言ってスタスタと皆の視界から消えて行った。
沈黙が辺りを包む。
悪い沈黙ではなく未だポカンと気が抜けた沈黙。
「…変わった子ねぇ。」
ジェリーのポツリとした言葉が沈黙を壊す。
「良い子っていうのは分かってるんスけどね。」
「何か異様に強いし?」
「掴み所がないっていうか。」
「すこし達観しているような。」
「ちょっと神田に似ているというか。」
「謎に満ちているというか…。」
次々出てくる嘉穂の気になる部分。
「本当の所はどうなの美咲?」
それをまとめるかのようにリナリーが隣にポカンとして居る美咲に尋ねる。
まさか皆がこのように嘉穂を思っている事に吃驚した。
まぁ、言われている事はあながち間違いではなく美咲も思っている事なのだが。
皆の視線が美咲に集まる。
嘉穂の事…。
嘉穂の、コト…。
「…私が知っている嘉穂は。」
誰かがゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。
「優しい、かな。やっぱり謎な部分は沢山あるけど、いつも私を守ってくれたり優しくしてくれたり気遣ってくれる。素直な優しさや不器用な優しさもあるけれど、やっぱり真ん中の部分は変わらないと思うの。嘉穂はきっと誰よりも優しいんだと私は思うな。」
良い例が今回の任務だ。
嘉穂は冷酷に見えるけどちゃんと周りを見て動いてた。
私に出来なかった事も身を挺してやっていた。
怪我をした神田やアレン、トマさんを心配していた。
何よりララやグゾルの事を想っていたのは嘉穂ではないだろうか。
じゃなきゃ、一緒のお墓なんて作らないでしょ?
私は嘉穂の事まだまだ知らないし分からないけど、ここにいる皆よりは知っている。
それが少し嬉しいと思うのはちょっとした優越感。
「うん!嘉穂はちょっと不思議だけど優しい私の自慢の親友だよ。嘉穂は嘉穂だよ。」
その言葉と美咲の笑みにまたもや皆ポカンとするがアレンとリナリーがフフッと笑みを漏らす。
「そうですね、嘉穂は少し変わっていますが優しいですね。」
「私もまだそんなに嘉穂とお話ししてないけど嘉穂が優しいのは何となく分かる気だする。」
分からなければこれから知っていけばいいよね。
リナリーの言葉にアレンが頷き美咲も笑みを深くする。
それに同調するように周りも活気を取り戻し始めた。
「で、なんの話?」
「なんのって。」
そりゃあ、と声がした隣を見てみると
「でぇっ!?」
「えっ!?」
「わっ!?」
「「「「「(何時の間に!?)」」」」」
「わたしはお化けか。」
美咲とアレンの間のソファの後ろ側に右肘をついた嘉穂の姿。
何時から居たのか誰も気づかなかったらしく後ろにひっくり返った者も。
「え、嘉穂何時の間に。(焦。」
「今。」
アレンの言葉に嘉穂はしれっと答える。
ほら証拠、と言って立ち上がる。
その格好は先程の団服姿ではなく、ラフな動きやすいTシャツと短パン姿。
本当にあの短時間で着替えて来たらしい。
「…は、早いね嘉穂。」
「脱いで着るだけだからね。」
皆さまは変わらない事で。そう言ってぐるりと見渡す。
「何を話してたの?」
「え。」
まさか本人に貴方の話をしてました、なんて言えるわけもなく。
「周りの人達の生暖かい視線がちょっとあれなんだけど。美咲さんや、一体何言ったんですかいねぇ?」
「え”?」
嘉穂の無言のジト目が痛い。
悪い事をしていないのに頬に冷や汗がタラりとたれる。
そして嘉穂の手が美咲に伸び
にゅぅぅううう〜。 ”
「いひゃひゃひゃッ!?いひゃいぃ〜!!?(泣。」
「さぁ、吐きなさい。吐露しなさい。場合と内容によってはもう片方の頬も犠牲になる事でしょう!(笑。」
美咲の右側の頬を遠慮なくつまみそしてそのまま思いっきり引っ張った。
半泣きで痛がる美咲を見ながら良い笑顔で笑う嘉穂。
ドSである。
そんな美咲を不憫に思ったのかアレンとリナリーが助け舟を出した。
「嘉穂は凄いって美咲と話していただけですよ。」
「だからそんなに美咲を苛めないで?」
アレン達の言葉に美咲をジッと少し見つめてから嘉穂がパッと手を放す。
「…しょうがない、アレンとリナがそういうのなら仕方がないので信じましょう。」
「え”!?私は!!?酷いよ嘉穂!!?」
「…もう一回するかい?」
僕は構わないよ?そう言い笑いながら嘉穂が自らの両手をワキワキと動かした。
「すみませんでした!」
「分かればいいのだよ、分かれば。」
自分の両頬を抑え身構える美咲に、ニヒルに笑った嘉穂。
そして、そのまま何事もなかったかのように「さてはて、僕はどこから手伝いますかね?」と辺りに笑ったのだった。
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