りんごあめ
□五月雨美人図
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「あら、雨」
反物屋の使用人が言った
振り返ると確かに雨が降っている、それも結構な量だ
こりゃあしばらく止みそうもない
「あなた、傘はお持ちなの?」
「‥いえ」
じゃあちょっと待って、と彼女が店の奥へ消えていった
風鈴がチリンと涼しげな音を立てる
「はい、これ」
少しして戻ってきた彼女の手には傘
手鞠の柄が可愛らしい
「それは‥?」
「傘よ。この雨じゃ、ここから一番近い宿まで走ってもずぶ濡れになっちゃうわ」
お使いになって、そう言って差し出された傘を受け取った
「ありがとう、ございます」
「良いのよ、気になさらないで」
笑った顔は嗚呼また随分とべっぴんさんだ
店を出て宿を探す
頭上では鞠がくるくると跳ねている
お綺麗ですね、くらい言えば良かったか
未だに頭から消えない笑顔を追いかけながら少し後悔した
背中でカタカタと音がする
「宿を、一晩‥お願い、したく」
終