小説2

□オレンジ
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「暇…だな…」

少女は小さく呟いた。
いつもの口うるさい男は居らず話し相手といえば愛用の黄色い縫いぐるみ君だけ。
その口うるさい男はちょうど学校で授業でも受けている時間だろう。

(早く起きすぎた…)

特にやる事もない彼女は再度布団をかぶり瞳を閉じるがどうも睡魔は襲ってこない。
別にいつも暇というわけではないがゼロの不在に何か頼まれたわけでもなく、またする事もない。

「………。」

倒した体をはぁ、と溜め息と共に起こすといつものブーツを履き黒を基本とした上着を羽織った。

(暇潰しに散歩でもするか。)

そう思い機械的な音のする扉を開くと廊下へと歩き出したのだった。



散歩と言っても黒の騎士団所有の飛行船艦内だが…。

(つまらんな…)

暫く歩くがやはり楽しいわけもなく退屈だとひとりごちてしまう。
しかしあることに気付き止めてしまっていた足を再び動かすと
ルルーシュがゼロであることを知っている自分以外の少女の元へと歩き出した。





「ほら!きりきり動く!」

「…?」

途中、C.C.は目的の人物の声を耳に捕らえて再び足を止めた。
そこは隊員たちの為に作られたトレーニングルームのような場所だった。
疑問に思い中を覗くと仁王立ちした赤い髪の少女の前で数人の若い男達が腹筋やら腕立て伏せをしている。
C.C.は遠慮なしにそこへ向かいながらまだ気づかないカレンに声をかけた。

「新人いびりもほどほどにしておけよカレン。」

「!?」

それに驚いた彼女はびくりと体を揺らすとゆっくりと此方を振り向いた。
その表情は予想していた通り不機嫌そのものである。

「何の用よ…。」

睨むようにじろりとみられたがそれを気にすることもなくふふっとわらってみせる。

「暇だったのでな。お前はもう学校へ行ってないんだろ?」

「私はあんたの暇つぶしじゃないんだけど…」

「あの…この方はどういった…?」

二人の言い合いを止めたのは意外にも一人の若い隊員である少年であった。
エースパイロットのカレンにがつがつと言えるこのライトグリーンの髪の少女。
その少女にどういった対応をすればいいのか…この場にいる若い隊員達全員が気になっている事であった。
ある意味二人の間に割り込んで問いかけたこの少年の行為は勇気ある行動と言えるだろう。

しかし戸惑ってしまったのは問いかけられたカレンの方であった。

「え…コイツは…」

(何て言えばいいのよ…私だってそれを知りたいわよ…)

「どこの隊の方なんですか?」

強気な性格なのだろうか。
少年は口ごもってしまったカレンに更に問いかけた。
他の隊員たちも興味津津というように聞き入っている。

彼らの興味の対象は見目麗しい黒い衣装を纏った少女。
確かにカレンも美人ではあるが勝気で健康的なそれとは違いC.C.は色白でお姫様のような気品を漂わせている。

男心をくすぐられると言ってしまえば可笑しいだろうがそういう少女に興味がいくのは男としてしょうがないといえばしょうがないのだろうが…。

「私に役職はないぞ」

口ごもっているカレンの変わりにC.C.が答えると隊員達は「え?」と驚いたような表情をしてしまった。
こんなにずけずけと自分たちの上司であるカレンに文句まで言ってしまえるのだ。
当然カレンと同じくらい…またはそれ以上の役柄だと思っていたのだから当然だろうが。

「じゃ一体…」

誰もがそれを疑問に思い最初にカレンへと質問をした少年が再び問いかけようとした時だった。



「おい。」

その場にいた全員が声の主へと顔をむける。
そこには黒のマントに仮面をかぶった男…
まさしく自分たちのリーダーであるゼロがいた。

「ゼロ!」

カレンはそれをみて嬉しそうに笑うと声をあげて彼の『名前』を呼んだ。
呼ばれた彼はツカツカと靴を鳴らし歩み寄るとカレンの前ではなくC.C.へと向き合う。

「こんなところにいたのかC.C.…」

その時初めて隊員達はこの少女の名前がC.C.だと知る。

「俺がいない間あまり出歩くな…。」

諭すように言うとはぁ、っとため息を吐くのがうかがえる。
仮面の向こうの表情はわからないがゼロの声はまるで呆れたような、しかしそれだけではなく心配の色を含んだ声。
しかし少女の興味はゼロにではなくゼロが持っているオレンジ色のものへと視線を向けていた。

「ゼロ、それはなんだ?」

確かに黒のマントに衣装、それと不似合いなオレンジが彼の手に握られていた。

「あぁ…先ほど千葉に会ったときにもらったんだが…」

なんとなくこの場に不似合いなやり取りにいささか居心地の悪さを感じながらもゼロは正直に答えてしまった。
しかしそれがわるかったのだろう。

「ふーん、おい、食べたいからむいでくれ。」

その言葉にゼロ以外のその場にいた全員が固まってしまう。

言葉を発した本人はほら早く、といわんばかりに近くにあった椅子に座りゼロを見上げている。
しかしその雰囲気さえもぶち壊すようにゼロはまた一つ溜息をつくとC.C.の横へと腰かけ「部屋まで我慢できないのか」と独り言のように呟き手袋を外し器用にオレンジを剥きだした。
ゼロがなにげなく言った言葉に若い隊員達が疑問な面持ちをしていたが本人はまったく気づいていないようだ。

「ほら、剥けたぞ。」

素早くきれいに向いてしまったオレンジのそれを一切れC.C.へと手渡す。
しかし渡されたのは手でなく彼女のその唇。
あーんというように彼の指ごと咥えてぺろりと舐めてしまった。

「おい…指まで食べる気か」

しかし固まってしまったのはゼロではなくその場にいたカレンと一同であった。
ゼロはまるで慣れていると言わんばかりにC.C.が舐めた指をその唇から離す。

「甘いな…」

普段滅多に笑わないC.C.が素直にそういうとニコリと笑った。
それに隊員達だけでなくカレンさえもドキリとしてしまう。

「ほら、残りは部屋で食べろ。戻るぞ。」

それだけ告げるとゼロはC.C.に「行くぞ」と促しカレンに邪魔して悪かったなと言葉を繋げた。
それにはっとして意識を取り戻すとカレンも「いえ…」と一言だけやっとの思いで言葉を吐く。

返事もせずにゼロの後へとついて歩き出すC.C.を見ながら隊員達は気づく。
先ほどのゼロの言葉…それに今のやりとり。
彼女に役職がないわけ。
ゼロの態度。

何をどうとっても導き出される答えはそれしかないだろう。



あぁ…あの美しい少女はゼロの―…



end
***
オレンジを食べさせるというのをしたかっただけ。
しかし人前でいちゃいちゃとはいい度胸だ(笑
まぁルルーシュは気づいてないんだろうけどね!
C.C.は気づいてるけど。
次はおまけ
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