小説2
□君にだけは子供のように甘えたい
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朝のこの行為だけはあの頃となんら変わりがなかった。
「ん…ぅ…」
小さく息を吐くように寝返りをうつとC.C.は琥珀色の瞳を長い睫毛から覗かせた。
まだ微睡むその表情に幼ささえ感じさせて俺を見つめる。
「なんだ…起きたのか?今日はえらく早いな。」
正確には起きたとは言えないかもしれない。
C.C.は考えるのも億劫だという表情でただ俺を眺めている。
そんなあどけない仕草のC.C.に誘われて俺は朱色の紋様があるコイツの額に音をたててキスを落とした。
そしてそのまま再び抱き締めてまわした手でその長い絹のような髪を指に絡めた。
それが気持ちよかったのか腕の中からすぅすぅと穏やかな寝息が聞こえてきた。
その、腕の中の存在に俺は心底愛しさを感じる。
いつからだろうか…と考えたのはコイツと暮らしはじめて数ヶ月が過ぎた頃。
それは気付いてしまえば割りと簡単に答えが出た。
出会った時から俺の気持ちは目まぐるしく変化して今はコイツの元にある。
永遠を共にするから選んだ訳じゃない。
コイツが記憶を無くしてしまった時に俺はそれでも側に…俺の側にいて欲しいと思ったのだ。
それはつまり誰でもいいわけじゃなくてコイツでなければ駄目だという気持ちの現れであった。
それに気づくのに一体どれだけ時間をかけた事か…。
まぁおおっぴろに向けられた好意にも気づかない振りをしていた俺と…がんとして自身の本音をひた隠しにしてきたC.C.。
それを思うとかかった時間の長さにも納得するしかないのだが。
それに今は前ほどコイツの気持ちがわからない俺ではない。
身の回りの世話をしろと煩い時は側にこい。
小悪魔の笑みで俺をからかう時はかまって欲しい。
あの時のピザの空箱の量は『お前がいないから悪いんだ』…と拗ねていたんだとわかる。
そう考えると不思議で…全く可愛いげのない女だとばかり思っていたのに今じゃコイツの全てにおいてが愛しく想える。
(かなり重症だな……)
ふとそんな風に思う自分を恥ずかしく思って顔を赤らめてしまった。
勿論前と同じようにC.C.の態度に苛々したり言い合いに発展して喧嘩になったりしょっちゅうしているのだが…。
(それでもコイツの頑固は相変わらずだからな……)
あと、極度のピザ好きも…そんな風に考えながらすぅっと息を吸い込んだ。
ライトグリーンの髪がさらさらと流れて少しだけ冷やりとした感触で俺の頬に触れる。
そのくすぐったさにクスリと笑いながら腕に軽く力をいれてぎゅっとC.C.を抱き締める。
そしてそのまま女性特有の甘い匂いを鼻腔に感じながら俺はゆっくりと瞼を閉じた。
*********
「ルぅルーぅシュ?」
珍しく甘ったるい声で呼ばれてルルーシュは目を覚ました。
「ん……ぅ?」
小さく唸って眩しい日差しに目を開く。
目の前にはニコリと笑う綺麗な美少女。
どうも今日は機嫌がよさそうだ。
そう思いルルーシュは彼女の頬に触れておはようとキスを落とした。
「何だC.C.…今朝は妙に機嫌がいいな?」
さわやかに身を起こす彼をしかし彼女はクスクスと笑いながら時計を指さした。
「お前…フフ…今何時だと思ってるんだ?」
そしてルルーシュはその指差されたそれを見た瞬間固まってしまった。
時計は無情にも夕方の4時を指している。
「ほえあああああああぁぁぁぁぁああ!?」
慌てて飛び起きて窓をみればオレンジ色の太陽が日を落としている。
どうやら眩しいと思っていた日差しは朝日ではなく夕日だったようだ。
「C.C.!お前起きてたなら何故起こさなかった!!?」
叫ぶようにC.C.に問うが悪びれる様子もなく彼女は再びごろりとベットへと倒れこんだ。
「あんまりお前が気持ちよさそうに眠っていたからな。起こしたら可哀想だと思ったんだ。」
再びクスクスと笑うと子悪魔の様な表情をさせて寝そべったままの体制でルルーシュを見上げてくる。
(明らかに…遊ばれている……)
この力関係はいつまで続くのだろう…ルルーシュはそう考えると少しだけがっくりと肩を落としてしまう。