小説2
□君にだけは子供のように甘えたい
1ページ/3ページ
あの時の俺はあんなに復讐を望んでいたのに…それでも何処かで『普通』である事を求めていたんだろう…。
「ねぇルル、明日…もし暇だったらでいいんだけど…買い物付き合ってくれない?!」
彼女に突然呼び止められた放課後。
今日は生徒会の仕事もなく特に用事も無かった俺はクラブハウスにさっさと帰ろうと鞄を手に持った時だった。
「突然だねシャーリー。」
俺はその本当に突然の誘いに苦笑いしながら明日の予定を頭に浮かべた。
(明日は休日…朝から部屋の掃除をして昼にはナナリーとお茶をしてそれから…)
つらつらとやらなければいけない事を思い浮かべた。
しかし俺のその仕草に目の前の少女はどんどん顔を曇らせていく。
それに気付いて再び苦笑してしまう。
しかしこの時の俺は彼女の気持ちをそこまで深く考えていなかった。
よくよく考えてみれば若かった…と言ってしまうには少々残酷だったかもしれない。
「朝は無理だが昼過ぎからなら付き合えるよ。」
そう俺が苦笑しながらも答えるとシャーリーはとても満面の笑みを浮かべて喜んだ。
その笑顔にたまにはゆっくりと過ごすのもいいかと思いながら帰路へとついた。
*****
「おかえりルルーシュ、早かったな。」
クラブハウスに戻り扉を開けるといつものように俺のベットでピザを食べるC.C.の姿が目に入った。
「……ただいま…。」
ベットの上であれほど物を食べるなと言ったのに…心の内でぼやきながらもC.C.に言っても無駄だと諦めて溜め息を吐いた。
「明日はデートか?」
しかし突然の問いかけに俺は暫し固まってしまった。
今考えればこの問いはアイツなりの意思表示だったのと気づく。
それは一年、一緒にただ『生きて』きてやっと気づいた事だった。
今まで本心を隠してきたせいかまったく、本当にコイツは本音を隠すのが巧かったから。
「そんなんじゃない。ただ買い物に付き合うだけだ。」
些かからかわれるのがわかって顔をしかめながら答えた。
しかし予想に反してC.C.はふーんと言っただけで再びピザを食べるのに専念してしまう。
その表情は無関心そのものだ。
(まったく可愛げのない女だな…)
その時の俺は確かにそう思った。
だが今となって思うとその時の自分は馬鹿がつくほど子供だったと苦笑してしまう。
『頭でっかちの童貞坊や』
その頃のC.C.に言われた俺の嫌なあだ名だ。
あながち間違いではなかった…まぁ、女心なんて今でもまだまだ分からない事だらけだが。
その日の夜もC.C.は普段と変わらず横柄な態度で俺をからかっていたし寝る時も同じベットへ入り背中合わせに眠りについた。
朝、起きた時はいつものよう何故かC.C.の背中を抱き締めるようにしてしまっていたが…。
言い訳にしか聞こえないだろうが本当に無意識の中、俺はそれをやっていた。
柔らかな感触に、その甘い匂いに腕を伸ばしてしまう。
しかしC.C.も最初こそからかってきたが二度目からは何も言わず彼女もそれを受け入れていた。
そんな朝を迎えても俺たちの雰囲気は甘くなったりはしなかった。
その事実が一層アイツの本心を俺から隠してしまっていたのだろう。
いざシャーリーと出掛ける時間になり声をかけても『はいはい』と言う返事だけ。
その返しに腹が立って更に『勝手に出歩くな』とか『少しは遠慮しろ』とかヒステリック気味に叫んでしまった。
それでもアイツはチラリと目を配っただけで早く行けと言わんばかりの態度だ。
苛立ちを感じながらも相手をしてもしょうがないと思いつつ俺はクラブハウスを後にした。
そう言えば出掛けた先でも最悪だったな、と思い出す。
シャーリーは女の子特有のはしゃぎ様で色んな服を見てまわっていた。
確かに、C.C.も普通にしていればシャーリーと同じくらいの年齢に見える。
だからと言ってそれが理由にはならない…その事が俺を更に苛立たせた。
ふと目についた服を見てこれならアイツに似合いそうだ…そう思ってしまったのだ。
普段から金のないアイツに仕方なく着るものを買ってやっていた。
きっとそのせいだと無理矢理納得するしかなかった。
しかし服を与えた時のC.C.は文句を言いながらも必ずそれを着て俺に披露していた。
その仕草が妙に普段のそれと違い年相応の少女っぽく見えてふっと顔が緩んでしまっていたのだが。
それがどういう事なのか、その頃の俺は理解していなかった。
まったく…どれだけ自分がC.C.の言う頭でっかちだったかと思うと呆れてしまう。
C.C.だけではない。シャーリーに対してもそうだ。
彼女の好意は第三者の目から見れば明らかであったのに俺は気づかないでいた。
いや…気づかない振りをしていたんだ。アイツが自分を見捨てることはないと自覚していた上で。
あの時は自分の気持ちを理解していなかったからそんな行動がとれたのだろうが…。
全てアイツに甘えていたんだと今更ながらに気づいた時の俺は…自分でも情けないような取り乱し方をしてアイツに不審な目で見られた。
思い出すと未だに頭を抱えてしまいそうになる。
まったく、どこまで鈍ければ気がすむのだとあの頃の自分を殴り飛ばしたい程だ。
シャーリーとその普通の、学生らしいデートを終えて帰ってきた時もそうだった。
その日は夕方過ぎには帰宅して俺は自室へと戻った。
「ただいま…」
帰宅の一言と共に扉を開けると目の前にいつもと同じ光景が俺の瞳に写し出される。
ベットの上でピザを食べているC.C.の姿。
しかしふとその積み上がった空の箱を見て絶句してしまった。
(いつもより断然多い……。)
俺は眉間に皺を寄せ口許をひきつらせながらC.C.に向き合った。
「オイ…あれほど言ったのにこれはどういう事だC.C.!?」
「おかえりルルーシュ。見ての通りだが?」
まったく煩いなと言う風な顔をしてC.C.は此方をチラリとみただけで手に持っていたピザをほうばった。
「お前…俺の話を聞いていなかったのか…?」
「聞いてはいた。了承はしていないがな。」
彼女はツンとした態度で俺の怒りさえもはね飛ばすと此方にチラリと視線を向け意味深な態度で微笑んだ。
その笑みに気圧され喉まででかかっていた文句を飲み込んでしまう。
しかし意外にも次の言葉はC.C.から吐かれた。
「…早かったんだな。」
「だったら何なんだ…。」
「もっと遊んでいてもよかったんだぞ?いつも小煩い男を相手にする時間を今日はピザを食べるのに費やせた。」
その時の俺はそんな彼女の言葉に愕然とし、なるべく私用でコイツを置いて出掛けるのはやめようと誓ったのだった。
勿論、俺の口座が破産するまでピザを食われると思ったからだが。
朝日が瞼裏に眩しく感じて俺はゆっくりと目を冷ました。
手を伸ばせばいつもの柔らかな感触にほっと安心する。