小説2

□何度でも何度でも
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小さく音が鳴った。
はっとして落としたカップを拾い上げる。

「大丈夫ですか?」

近くにいたウェイトレスがすぐに駆け寄りC.C.に気を配りながら濡れた床を布で拭き取った。

「あぁ…大丈夫だ。ありがとう」

にこりと笑って礼を言うと彼女もまた笑顔で会釈し厨房へと戻っていった。
小さなカフェだがしっかりと接客もなっているし何よりも居心地がいいな…。
そんな風に思いながらC.C.は窓の外へと目線を向けた。
今日は休日だからか子供の声が聞こえる。


随分かわってしまったが…
いや、面影などもはや無いに等しいがここは…



私が育ったあの村だ…









暖かいカフェから出て少し歩く。
そして疑惑は確信へと変わった。
目に入ったのはあの教会。
他の建物とは違いそれだけ格段に古いのがよくわかった。
となりには立派な施設のような建物が建っていた。

少し緊張気味にそこへと足を進める。
目の前に立つとどくりと大きく心臓が鳴るのが聞こえた。

(いつか、とは思っていたがまさか…200年そこらでたどり着いてしまうとはな…)

こういう状況に陥ったら涙でも流れるだろうかと思っていたがC.C.の気持ちは割りと落ち着いていた。
じっと想いに耽るように眺めていると後ろに人の気配を感じた。

「何か御用ですか?」

声をかけられ振り向けばそこには初老のシスター姿の女性がいた。
その服装に一瞬だけ身を固くしたが一つ深呼吸をしてそれを解く。

「いや…観光だ。随分古い建物に思えたから。」

不審がられないようになるべく言葉を選んで答えた。
少し大袈裟に笑顔までつけてしまい逆に不気味だろうかと思ったがその女性は優しく微笑み「そうですか。」と答えた。

「この街で観光できるところはそうありませんが…この教会は随分古いものですからね。
大した言い伝えなどはありませんが子供たちの歌に哀れな魔女がかつて住んでいたと言う歌詞があります。」

そして彼女はすっと目線をそれから外し隣の建物へと目を向けた。

「魔女などただの童話でしょうが…ここには子供が多いのでそれが口伝いに歌われてきたのでしょうね。」

その視線につられC.C.も彼女と同じ方へと目を向ける。

目に入ったのは養護施設の文字。

「ここは身寄りのない子供を預かる施設なんですよ。」

その看板の前には元気に走り回る子供たちの姿。

「そうみたいだな…。」

よく聞けば先ほどカフェで聞いたような子供の笑う声が響いていた。

(不思議だな…自分がいたあの時代、貧困と差別でこの場所はまるで地獄のようだったのに…)

ルルーシュが世界を裏切り優しい世界を作ったあの瞬間から200年が経っていた。
しかしあの時彼が望んだ優しい世界…それは未だここにある。
確かに小さな抗争はいつの時代も勃発していたが世界が混乱に陥るような事は今まで一度もなかった。
まぁ…C.C.からしてみればまだたったの200年なのだが…。
それでも200年…彼が作り上げた世界で『生きてきた』という事実が自分には嬉しかった。

春は花が咲き乱れそれを歌い、夏は太陽がまぶしく鳥が舞う、秋には山々が化粧をはじめそれに見惚れると冬にはそれが嘘のように真っ白に染まる。
春夏秋冬、C.C.は彼女なりに暮らしてきた。
彼女が訪れた場所の人々も優しく『生きている』事を実感できる毎日だった。
しかしふと、いつも一人になると気づく。


あぁ…やはり独りは辛いと。




それでもこの空も、大地も、全てルルーシュなのだと納得して気持ちを切り替える。
200年たってもまだ考えてしまう。

何故、あの時彼を止めなかったのだろうかと。
何故、あの仮面の騎士を止めなかったのだろうかと。

しかし結局どちらを選んでも自分は後悔するのだろうと理解する。

「後悔か…。」

随分人らしくなったようだと笑ってしまった。
そんなC.C.にシスターは何か事情があって女の一人旅などしているのだろうと思ったのか優しく彼女の肩にふれて「後悔は悪い事ではありませんよ。」と囁いた。

「中で祈りをささげますか?」

続けてそう誘われたが正直まだ、この場所に踏み込む勇気はなかった。
丁寧に断るとありがとうと会釈をしその場所を後にした。
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