「もう、久しぶりに来たのに!」 「来いとは言ってねえだろ。つべこべ言うな」 久々に家の呼び鈴が鳴った。嬉しいことに学友が訪ねてきてくれたらしい。彼女、もといハナコは俺が扉を開けるなり、その臭いに顔をしかめた。 「まさか、煙草に手を出すとは…」 「あ?悪ぃか?」 「きっとリーマスが良い顔しないね」 「"臭い消しの呪文"を使うさ。アイツ、来るときには事前に連絡くれるからな。誰かさんと違って」 ハナコはふんっ、と鼻を鳴らして灰皿の煙草をゴミ箱へ捨てた。そしておえっ、と舌を出す。 「こんな臭いののどこが良いの?体にも悪いのに」 「んだよ、偽善者みたいに」 「別に偽ってないでしょう!?人がせーっかく心配してあげてるのに」 「あ?心配?」 そうよっ!と大きな声を響かせてハナコは差し出したクッキーをかじった。 「シリウス」 「あ?」 「シリウスは、け、結婚とか考えてないの?彼女とか、いんの?」 「んだよ、いきなり」 急に声色を変えて、うつ向き加減に話すハナコはいつもより綺麗に見えた。なぜだろう、学生のときみたく、ドキドキと胸が弾む。――ああ、もちろん、結婚なんて考えていない。 「女の人に興味ないの?あんなに、プレイボーイだったじゃない?」 「いつの話だ、バーカ。こんなとこに篭ってんだ。来るモンも来ねーよ」 そうして俺は煙草を手に取る。――いや、取ろうとした。ハナコがぱしん、と煙草を弾き飛ばした。 「何しやがる」 「わたし、さ」 「?」 「シリウスのことね、ずっとす、好…」 「ああー、タンマ!」 俺はハナコの言葉を制した。弾き飛ばされた煙草は、箱から飛び出しそこいら中に散らばっている。 「ハナコが考えてんなら…」 「?」 「俺はハナコにプロポーズする。女から告白されて、はいそーですか、なんて言えねーだろ。格好悪い」 そしてあからさまに驚いたハナコに、俺はこう付け足した。 「ただな、煙草は吸うぞ」 ヘビーシガレットに忠誠を誓え! (ん、徐々に馴れていく方向で…) end. 20090426 |