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□必要の部屋
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静まり返ったホグワーツ、の8階。大広間のどんちゃん騒ぎが嘘のようだった。例のあの人の没落がもたらした対極の環境。お祭り騒ぎと閑古鳥、笑い声と泣き声、笑い顔と泣き顔、その他諸々。


「……めちゃくちゃだ」


8階の一角。知る人ぞ知る内緒の場所、秘密の特訓場だった場所、たくさんの思い出の保管庫。壁が焼け焦げている。まだ、ほんのりと熱かった。


「本当にここだっけ……必要の部屋」


ぼそり。崩れた焼け焦げの先に吸い込まれて消えた。


「わたしが必要なものはね」


本来“部屋の扉”だった場所に話しかける。誰が見ても頭がおかしい行動だった。それでも続ける、愚かな行動。


「背が高くて、赤毛で、そばかすで、笑顔が眩しくて、グリフィンドールの最高のビーターで、双子の兄貴の方で、それから、それから……」


唇を噛んで、なんとか続ける。and,and,and――しかしこれは、続いているとは言わない。

壁にぽっかりと空いた穴をくぐる。何もかもが真っ黒に焦げていた。いくつものキャビネット、何が入っていたかもわからないトランク、本とおぼしき物体の燃えかす、その他諸々。わたしの必要なものだけがない、そんな気がした。


「わたしが、必要なものは、ね――フレッド・ウィーズリー」


こだまして、消えた。
部屋に何の変化もない。それはこの部屋が最早機能しなくなったのか、それとも――


涙を一滴、保管庫に残した。



虚を掴む


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