「そんな苦い顔してたら、幸せが逃げちゃうよー」 僕とハナコはカフェに入って、紅茶を注文した。ハナコは追加で一口菓子をひとつ。 「そんなことないよ」 「あるよー、わかるよー」 自分の顔が、眉を下げて笑った。意識した訳じゃない、自律神経が働いた、と言った方が語弊は少ないんじゃないか、ってそう思う。 ハナコは砂糖の入った真鍮のポットにスプーンを突っ込んだ。山盛りに積まれた砂糖と共に、スマートな針のようなスプーンが戻ってきた。ドサリ、そんな効果音と一緒に、砂糖は僕のティーカップへ飛び込んだ。 「ちょっと!いくら僕でもそれは甘過ぎるよ!」 「いーのいーの。今のリーマスみたいな苦い顔には、とびっきり甘いものが必要だと思うんだ」 どさり、どさり。結局ハナコは僕のカップに山盛り三杯の砂糖を入れた。それから、彼女自身のカップには適量の砂糖を投入して、ハナコはそれを口元へ運んだ。美味しそうな、普通の紅茶だなぁ。 砂糖、大さじ また見抜かれた。人狼なんかの僕が、ハナコみたいな普通の女の子と付き合っているなんて、なんて馬鹿馬鹿しいんだろう。そう考えるときは、いつもハナコに軽い説教をされるんだ。 「リーマスみたいなハンサムな男の子と、私なんかが付き合っている方が、よっぽど馬鹿馬鹿しいでしょ?」 甘すぎる紅茶を、胸焼けを我慢して飲み込んだ。「んー、メルシー!」。オシャレな一口菓子のそのオシャレさを、フランス語で表したかったのか、ハナコはそう声高に言った。メルシーの本当の意味が"ありがとう"だということは、今は黙っていようと思った。 end. 20100108 |