.2

□見返り
1ページ/1ページ


読書の秋とはよく言うけど、そこまで本ばっかり読まなくてもいいじゃん。と、口を尖らせると、だってもうすぐテストだよ。と、当然のように返された。知ってるけどさ、そりゃあ今週末がテストってことくらい。私の成績が決して良くないことくらい。


「じゃあ勉強しなよ。ほんとに手遅れになっちゃうよ。ハナコ、こないだのルーン文字学のテスト、何点だっけ?」

「どんな数字をかけてもゼロになっちゃう点だけどさ…。なんか、ね、やっても無駄だって思っちゃうの。見返りがないと言うか…」


リーマスは一瞬ぴたりと止まって、はぁ、とため息をついた。それから口を開く。進級できなくてもいいの?と。


「ダメ、ヤダ、イヤ」

「だったらちゃんと勉強しよう、ね?」

「えー……はぁ、わかった…」


いいこ、いいこ、とリーマスはにっこりするとまた本に目を落とした。彼の長い睫毛が揺れるのを眺めるのもいいけど、本当に留年したら洒落にならない。薄っぺらい鞄に手を突っ込んでルーン文字の表紙の教科書を取り出した。


"次の文を訳せよ"
…は?知らないよ。リンゴの木がなんだとか、人間と犬がどうだとか、自分で訳しなよとか思う。あーあー、ううん。いけない、いけない。これだから駄目なんだよね、私。パラパラとページを戻って法則を確認。ああ、リンゴの木にフクロウがとまっていたのか。なるほど、ふむふむ。


「リーマス、できたー」

「ん、ほんとに?」


羊皮紙を持ち上げると、まだ乾いていないインクはたらり、と垂れたけど、リーマスは頷いた。それから――


「よくできました」


少し湿った熱が、頬に触れた。



見返り


「君もバカだね、リーマス」

「うん、心からそう思うよ」

「リーマス、見て見て!出来たよー!」

「同情するよ(リリーじゃないからね)」

「はぁ、だったら変わってくれよ」

「ほ、ホラ、ハナコってかわいい子だと思うよ。行ってこいよー」


あれから、ハナコの成績はバカみたいに良くなっていった。だけどわざわざ勉強が一通り終わる度に僕にキスを強請るのは、どうにもならない。どうにかしてくれよ、全く。



end.
20090907


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ