.2

□Geminids
1ページ/1ページ


「シリウスー!はやくはやく!」

「急いで転んでも知ら…だから言ったんだ」

「いたいよーははは!」


12月14日、21時30分。朝から浮き足立っていたハナコと一緒に暗闇に飛び出した。冬の寒空の下に光るのは俺の杖の先と半月だけで、まだ俺に星は見えてはいない。


「何笑ってんだ。あーあーお前スカートびしょびしょ」

「芝生濡れてた!寒いよー」

「馬鹿やろう」

「シリウス一緒に座ろう。それと早くノックス!ノックス!」


何もない、まるで無限大に芝生が広がっているようなホグワーツのどこかに並んで座る。俺のよりはるかに小さなハナコの手を握ると、彼女は歯痒いようにはにかんだ。「ノックス」。光を消す呪文で、無数の星空のランプが光った。数え切れないほどの、小さな小さなランプの集合体。


「うわあ」

「すげぇな。広い」

「うん!あっシリウスはどこ?」

「俺?」

「ははは、星の方だよ」

「ああそっち…さあなぁ、わからん。一番明るいやつだろ」


「ほんとにきれいだね!」とか「ぴゃーっ!」とか(鳴き声?)星空を一通り堪能したハナコは徐々にだんまりになって、じっと空を睨んだ。それからごろん、と仰向けになった。もちろん、手をつないだまま。


「…流れないねぇ」

「…だな。今日なんだろ?流星群」

「そのはず…なんだけど」

「…んな顔すんな。きっともうすぐだよ」


ハナコの顔を覗き込んだ。ハナコはまるで邪魔とでも言うように俺から目を逸らして、じっと星空を見つめる。俺もハナコの横に仰向けになった。


「お前、よくこんな冷たいところに寝てたな」

「……」

「見えるまでずっといてやるから、まだ明け方まで嫌ほど時間はあるぜ」

「…風邪引いちゃう」

「冗談」


2人で手をつないで流れ星を待つ時間は、まるでカタツムリの体内時計のようにゆっくりだった。怖いともいえるような形相で星空を睨むハナコの隣で俺は、流れ星が流れないことを祈った。ずっとこうして、こいつと一緒に。


「シリウス」

「?」

「ごめんね。流れ星見えなくて…2人で見たかったんだけどねぇ」

「気にすんな気にすんな。おまえのせいじゃないだろう?」

「ありがとうシリウス」

「ははは。なぁ、ハナコ」

「ん?」

「…キスしていいか?」

「なーんか、そう言うと思った」

「ムード台無し」


またはにかんだハナコにそっとキスをする。触れるだけのキスを長く、長く。今、まさにこの瞬間、あれほど頑な(かたくな)に流れなかった星が、何百という軍勢で一斉に流れているような気がした。唇を離して、少し笑いあって、また仰向けになって見上げた星空には、ただ静寂にきらきらと光る無数の星があるだけだった。そして俺たちはまた、流れる星をじっと待つのだ。



ランプの炎が落ちるまで



end.
20101215
ーーーーーーーーー
タイトルは「双子座流星群」


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ