「シリウスー!はやくはやく!」 「急いで転んでも知ら…だから言ったんだ」 「いたいよーははは!」 12月14日、21時30分。朝から浮き足立っていたハナコと一緒に暗闇に飛び出した。冬の寒空の下に光るのは俺の杖の先と半月だけで、まだ俺に星は見えてはいない。 「何笑ってんだ。あーあーお前スカートびしょびしょ」 「芝生濡れてた!寒いよー」 「馬鹿やろう」 「シリウス一緒に座ろう。それと早くノックス!ノックス!」 何もない、まるで無限大に芝生が広がっているようなホグワーツのどこかに並んで座る。俺のよりはるかに小さなハナコの手を握ると、彼女は歯痒いようにはにかんだ。「ノックス」。光を消す呪文で、無数の星空のランプが光った。数え切れないほどの、小さな小さなランプの集合体。 「うわあ」 「すげぇな。広い」 「うん!あっシリウスはどこ?」 「俺?」 「ははは、星の方だよ」 「ああそっち…さあなぁ、わからん。一番明るいやつだろ」 「ほんとにきれいだね!」とか「ぴゃーっ!」とか(鳴き声?)星空を一通り堪能したハナコは徐々にだんまりになって、じっと空を睨んだ。それからごろん、と仰向けになった。もちろん、手をつないだまま。 「…流れないねぇ」 「…だな。今日なんだろ?流星群」 「そのはず…なんだけど」 「…んな顔すんな。きっともうすぐだよ」 ハナコの顔を覗き込んだ。ハナコはまるで邪魔とでも言うように俺から目を逸らして、じっと星空を見つめる。俺もハナコの横に仰向けになった。 「お前、よくこんな冷たいところに寝てたな」 「……」 「見えるまでずっといてやるから、まだ明け方まで嫌ほど時間はあるぜ」 「…風邪引いちゃう」 「冗談」 2人で手をつないで流れ星を待つ時間は、まるでカタツムリの体内時計のようにゆっくりだった。怖いともいえるような形相で星空を睨むハナコの隣で俺は、流れ星が流れないことを祈った。ずっとこうして、こいつと一緒に。 「シリウス」 「?」 「ごめんね。流れ星見えなくて…2人で見たかったんだけどねぇ」 「気にすんな気にすんな。おまえのせいじゃないだろう?」 「ありがとうシリウス」 「ははは。なぁ、ハナコ」 「ん?」 「…キスしていいか?」 「なーんか、そう言うと思った」 「ムード台無し」 またはにかんだハナコにそっとキスをする。触れるだけのキスを長く、長く。今、まさにこの瞬間、あれほど頑な(かたくな)に流れなかった星が、何百という軍勢で一斉に流れているような気がした。唇を離して、少し笑いあって、また仰向けになって見上げた星空には、ただ静寂にきらきらと光る無数の星があるだけだった。そして俺たちはまた、流れる星をじっと待つのだ。 ランプの炎が落ちるまで end. 20101215 ーーーーーーーーー タイトルは「双子座流星群」 |