「今日、晴れてるけど?」 「ふふふ〜いいのっ!ニッポンからママが送ってくれたのよ!」 ハナコは閉じられていた赤いストライプの傘を、ばさりと僕に向けて開いた。そして、くるくると回す。ああ、雨が降ってなくてよかった。さもないと今頃びしょ濡れだ。 「ね、可愛いでしょ?」 「なんで持ち歩く…」 「えー、だってせっかく送ってくれたのに。持ってなきゃ勿体ない」 「ハナコ、意味わからない」 傘はハナコの頭上にさされていた。生憎、遮る雨は降っていなかったが。 「レギュラス!見て見て私、メアリーポピンズみたい?」 「メアリーポピンズの真似事をする幼稚園生みたい」 「あーん、それじゃあただの私じゃない!」 「あ、否定しないのか、幼稚園生」 ハナコは僕に背を向けて、大股でスキップしながら進み始めた。ぽーん、ぽーんとかいう擬音が付きそうなくらい、軽く弾むように。まるで、傘の下に上昇気流が生まれたみたいに、軽く大きく。仕方ないから、僕もハナコを追いかけて走った。 「ハナコ!ストップ!」 「?」 足を止めて振り返ったハナコの手を掴む。思ったより息が上がった、ハナコはケロリとしていたが。 本当に、メアリーポピンズのように飛んでいってしまうんじゃないかと、ちょっと思った。 「レギュラス?なあに?」 「いいえ。やっぱりメアリーポピンズみたいだと思って」 「あらまぁ。私別に怒って先に行ったわけじゃないよ?別にお世辞みたいなのはいいよ。ただスキップしたくなっ――」 「お世辞じゃない。あんまりよくない意味で言ったんだけど?無邪気すぎて気付いたら迷子になってそうだと思った」 「あははー、ありそうだからヤだなぁ」 へらりと笑ったハナコは僕の手を握り返した。照れたように目を細めるハナコに、僕らにしかわからない合図を送ると、ハナコは頬を染めて目をつむった。メアリーポピンズの傘の下で、僕らの陰は重なった。 空飛ぶ、 end. 20100924 |