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□一目惚れ
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「いっつも悩んでるみたいな顔」


図書室で僕の前に座り、不躾にも僕のカオを指差して君は言った。髪の黒い、見知らぬ人だった。


「すみません」


とりあえず謝って、また本に目を落とした。こういう人の対処は知らなかったが、無視するのが一番な気がした。だけど、気配は消えてくれない。


「あんた、誰?」


無視するつもりだったのに、嫌でも僕の脳みそに入り込んできて、僕の目は字を読んでいるのに意味を拾ってはくれなくて、「あんた、誰」というのはこっちの台詞で、気づいた頃には聞いていた。


「こっちのセリフです」

「ああ、そうか。私は――」


聞き取れなかった。聞き返すのは、失礼かな。でも多分これっきりだろうから、わざわざ聞き返してこの人の名前を知っておく意味もないけど。


「悩み事?」

「あなたには関係ないでしょう。放っておいて下さい」


――ふーん。授業さぼってみたら?すっきりするよ。
目の前の椅子はガタンと音を立てて空になった。じゃあね、という声に顔を上げて、笑顔で手を振るこの人を見て、また本を読み進める。活字の意味はわからなかった。



結局、

(あなたは誰ですか)(名前が気になるのはどうしてですか)



end.
20090922


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