「いっつも悩んでるみたいな顔」 図書室で僕の前に座り、不躾にも僕のカオを指差して君は言った。髪の黒い、見知らぬ人だった。 「すみません」 とりあえず謝って、また本に目を落とした。こういう人の対処は知らなかったが、無視するのが一番な気がした。だけど、気配は消えてくれない。 「あんた、誰?」 無視するつもりだったのに、嫌でも僕の脳みそに入り込んできて、僕の目は字を読んでいるのに意味を拾ってはくれなくて、「あんた、誰」というのはこっちの台詞で、気づいた頃には聞いていた。 「こっちのセリフです」 「ああ、そうか。私は――」 聞き取れなかった。聞き返すのは、失礼かな。でも多分これっきりだろうから、わざわざ聞き返してこの人の名前を知っておく意味もないけど。 「悩み事?」 「あなたには関係ないでしょう。放っておいて下さい」 ――ふーん。授業さぼってみたら?すっきりするよ。 目の前の椅子はガタンと音を立てて空になった。じゃあね、という声に顔を上げて、笑顔で手を振るこの人を見て、また本を読み進める。活字の意味はわからなかった。 結局、 (あなたは誰ですか)(名前が気になるのはどうしてですか) end. 20090922 |