レギュラス様が姿を消した。だれかが、だれかたちが、騒いでいた。奥さまが金切り声をあげながら、探せ探せと僕妖精や家政婦に言う。「わかりました、奥さま」。お決まりの言葉。で、どうすればいいのか、と考えてもなにも思い浮かばないのだけれど。 様子がおかしいクリーチャーを見た。僕妖精が変な行動を起こすのは珍しいことではないけれど、そういうことではない。何か言いたいけれど言えない、そんな感じに見えた。 「クリーチャー?」 その小さな体を精一杯にビクつかせ、クリーチャーは振り返った。性格の悪そうな顔。平均的な僕妖精よりもくすんだ肌。それが、いつもよりも少しだけ人間味を帯びている気がした。 「あなた、何か変じゃない?」 「レ、レギュラス坊ちゃまがいなくなって、動揺しているのです」 がまがえるみたいな声を、絞り出すように発してクリーチャーは言った。おかしい、おかしい。 「何か知っているんじゃないの?」 「クリーチャーは、何も、知らない。全部、忘れた」 「忘れた?」 はっ、として口をふさいで、クリーチャーは床に頭を打ちつけた。何か知っている。レギュラス様に、何か命令されている。 「わかった。あなたは何も知らない。レギュラス様がどこで、何をしているのか、全部知らない」 頭を打ちつける運動をやめて、クリーチャーは私を見た。可愛げのない、くちゃくちゃの顔。レギュラス様が可愛がった、おかしな生き物。 「私も、あなたからは何も聞いていない。全部忘れちゃったわ」 笑って立ち上がる。レギュラス様がクリーチャーの脳みそにだけ残した言葉は、そこにだけ有るべきなのだろう。レギュラス様の望んで、そこにだけ残したのだ。加えて、クリーチャーや他の僕妖精を傷つけるなと言ったのもレギュラス様だ。 クリーチャーに頭を打ち付けさせてレギュラス様の言い付けを破ったのは、勝手に姿を消してしまったレギュラス様へのちょっとした反抗心だということで、許してもらおう。 浅瀬でサヨナラ |