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□ランナー
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シリウス、シリウス、シリウス!わたしはひたすら走った。脱獄して、シリウスはどこにいるのだろう?シリウス、シリウス。彼のいそうなところ、たとえば、グリモールドプレイスの実家とか。距離なんて気にしない。ただひたすら、彼のかけらを探して走った。姿くらましもしないで、箒にも乗らないで、ひたすら、己の足で走った。シリウス、シリウス。心臓の鼓動に合わせて、彼の名前が口から漏れる。はっきりとした声なんかじゃない。鼻と鼻がくっつくくらいの至近距離でもないと聞こえない、息と同化した音。限界のスタミナを刺激しない、必要最低限の声。シリウス、シリウス、シリウス、シリウス。あれ、彼の名前って、こんな発音だったかしら?シリウス、シリウス、シリウス。ゲシュタルト崩壊。それでも、機械仕掛けの猿のおもちゃのように、繰り返し繰り返しつぶやいた。シリウス、シリウス。息をするようなもの。当然の行い。シリウス、シリウス、シリウス。そして――


「シリウス!」


何の変哲もない、暗い河辺。わたしたちのファーストキスの場所。
やっと、声という声が出たのととっても臭くて暖かい身体に包まれたのは、ほぼ同時だった。





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