Novel

□薄明り
2ページ/2ページ

 男は軍人でした。
 しかし今は違います。
 男の国は戦争に負け、男も軍人としては生きられなくなったのです。

 敗戦国の軍人に居場所はありません。
 敵国はもちろん、自国にさえ。
 この男のように、遥か遠くの国へと逃げてゆくしかないのです。

 行き先など、誰も知りません。
 このまま機関車の上で一生を終えてしまうかもしれません。
 それでも、戦争犯罪者である彼に、自国へ戻るという道は残されていないのです。



人は全て、王の下で一つである。と
高らかに謳われた言葉のなんと愚かしいことでしょう

敵も味方も分からなくなる戦場の中
全ての人を憎み叩き伏せ殺した自分は、なんと醜かったのでしょう



 従者が眠りについたのを確認すると、男は窓の外に目をやりました。
 明日の光を追っているように、機関車の行く先には朝日が広がっています。
 鮮やかな光の眩しさに、男は目を細めました。





時明かり 水明かり
東の空を暁に染めて

薄明かり 仄明かり
照らされた光の道を、機関車はただ進み往く





 行く先を知る者はどこにもいません。

 一生を終える場所は、この機関車の上かもしれません。

 次の駅を告げる汽笛が、ひとつ、上がりました






前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ