Novel
□薄明り
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男は軍人でした。
しかし今は違います。
男の国は戦争に負け、男も軍人としては生きられなくなったのです。
敗戦国の軍人に居場所はありません。
敵国はもちろん、自国にさえ。
この男のように、遥か遠くの国へと逃げてゆくしかないのです。
行き先など、誰も知りません。
このまま機関車の上で一生を終えてしまうかもしれません。
それでも、戦争犯罪者である彼に、自国へ戻るという道は残されていないのです。
人は全て、王の下で一つである。と
高らかに謳われた言葉のなんと愚かしいことでしょう
敵も味方も分からなくなる戦場の中
全ての人を憎み叩き伏せ殺した自分は、なんと醜かったのでしょう
従者が眠りについたのを確認すると、男は窓の外に目をやりました。
明日の光を追っているように、機関車の行く先には朝日が広がっています。
鮮やかな光の眩しさに、男は目を細めました。
時明かり 水明かり
東の空を暁に染めて
薄明かり 仄明かり
照らされた光の道を、機関車はただ進み往く
行く先を知る者はどこにもいません。
一生を終える場所は、この機関車の上かもしれません。
次の駅を告げる汽笛が、ひとつ、上がりました
終