薔薇の間

□幸せ
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SIDE:佐伯克哉
     (Normal)

“接待”

それは最低の屈辱の記憶。

力で捩じ伏せられ、男には有り得ない行為を強いられ、身体を暴かれた。

「っ・・・」

思い出すだけで、身体が震える。

嫌悪感が込み上げて来る。

『君は本当に淫乱だな』

「ち、がう・・・」

『本当はコレが欲しくて堪らないんだろう?』

「ちが・・・」

鮮明に蘇る、暗く、淫靡な、闇色の記憶が克哉を苛む。

『君は君だろう。下らない自己卑下は私に対する侮辱だ』

認めてくれたと思った。

眼鏡を掛けた克哉ではなく、克哉自身を見てくれたのだと。

それなのに、裏切られた。

『君は誰でも良いんだろう?快楽を得られるのならば、な』

蔑むような視線、冷たい言葉、無理矢理に熱を煽る指先。

「っあ・・・ああ・・・もう、・・・・・・いや、だ・・・」

克哉は肉体的にも、精神的にも限界が来ていた。

フラフラと覚束無い足取りでバスルームに向かう。

途中、洗面台に置いてある剃刀を手に取って。

バスルームに入り、シャワーのコックを捻る。

冷たい水が克哉に降り注ぐ。

人工の雨の中、克哉は床に座り込み、剃刀を手首に宛がった。

その手首は細い。

否、手首だけではない。

克哉の身体はこの数週間で更に細くなった。

バレーボールをしていたと言っても、他の男と比べると克哉は華奢な方だ。

しかし今の克哉は華奢と言うよりも窶れた感があり、痛々しい。

「・・・ごめん、〈俺〉・・・・・・」

克哉の唇から零れたのは眼鏡を掛けたもう一人の自分への謝罪の言葉。

ゆっくりと、深く、剃刀の刃が克哉の手首を傷付ける。

溢れる深紅が透明な水に溶け、透明を薄紅に染めて行く。

それをぼんやりと見つめながら、克哉は静かに闇へと意識を融かした。

「〈オレ〉っ!!」

最後の瞬間、聞き覚えのある声を聞きながら。
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