novel*00

□彼は彼で、君は君
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「お!えーと、」
「・・・刹那」
「そうそう、刹那!」
「・・・なんだ」
「別に何もないけど?」
じゃぁ呼ぶな。と、不機嫌丸出しで睨みつける。だが、そんなので怯む彼じゃない。
彼、ロックオン・ストラストであるライル・ディランディはおどけたように言う。
何も無いなら、と、自室に入ろうとしたところで今度は腕を掴まれた。
疲れているんだからとっとと休ませろ。と目で語る。
そうだ。ティエリアと話した後、そのまま部屋に入ろうとしたところでこの男に呼び止められたのだ。
何も無いと言いながら、なんとなく彼の顔に影が差しているのが見えた気がした。
腕を掴まれたまま、そこから動くこともできず、その影の意味が気になってひとつため息をした後言った。
「入るか?」
すると、少し晴れたような表情になったライルはおう、と笑顔で言ってきた。

入ったはいいものの、ベッドに腰を掛けたライルは黙ってしまった。
刹那は、備え付けのイスに座ったまま、彼の持つなんとも言えないものを探っていた。
いつもおどけているくせに、何故かその度悲しいような、辛いような、暗い影が差すのは何故だろう。
「ロックオン」
名を読んで数秒、彼はゆっくりと顔を上げた。
「・・・なんだ」
「お前は誰だ?」
「・・・は?」
唐突な質問だった。何故自分はこんな質問をしてしまったのだろうと一瞬考えた。
だが、いきなり出てきた言葉であっても、その意味が少しずつ自分の中で理解をし始めた。
「・・・誰、っていうと・・・?」
「お前はなんなんだと聞いてる。ライルか?ロックオンか?それとも、ニールか?」
その意味をライルはライルなりに理解をして少し目を見開いた。
「おれ、は、ロックオン・ストラト」
「違う」
何・・・?と小さな声が聞こえた気がした。
「そうじゃない。お前はロックオンだ。ロックオンだが、そのロックオンは誰なんだ?」
「・・・」
「俺たちの知ってるロックオンはお前じゃない。ニール・ディランディだ。だがお前はニールじゃない」
「・・・」
黙って、静かに、ライルは刹那の話を聴く。
「じゃぁお前は誰だ?俺たちの知ってるニールなのか?じゃぁお前という存在はどこに行った?」
言い終えると、ライルはゆっくりと口を開いた。
「・・・俺、は・・・ライル、ディランディ・・・だけど、ロックオン・ストラトス、だ」
「ああ」
「だけど、皆は、俺から、兄さんの影を、見てる・・・」
「・・・ああ」
途切れ途切れだが、ゆっくりと自分の気持ちを漏らす。
「それが、いや、だ・・・。俺は、兄さんじゃない、ニールじゃないのに・・・っ」
「そうだ、お前はニールじゃない。いくら顔や声が似ていようとも、お前たちは全然似てないんだ」
”似てない”なんて言われたことがないのだろう。少し驚いたようにこちらを見上げてくる。
ゆっくりとイスから立ち上がってライルの下へと歩み寄って、少し涙が溜まった目尻に指をそえる。
「ニールとお前は色が違う」
「・・・色?」
「そうだ。ニールは例えるならオレンジ。周りを明るく照らして包み込むような。だがお前は青だ。静かに揺れる水面(みなも)のような」
そんなことを言われたのは初めてなのだろう、少し頬が赤くなっているのがわかった。
「匂いも違う。暖かさも違う。周りに纏う空気も違う。似てるのは、顔と声だけだ」
そうなのか?と、不思議そうな目で見上げてくるライルがおかしくて苦笑してしまう。
「だからお前がニールになる意味も、なる必要もないんだ」
「っ・・・」
涙を堪えるように奥歯を引き締めた。
そ・・・、と、ライルの頬を両手で優しく包み込む。
「ここにとって、ロックオンの存在は大きかった。俺たちがこうやって心を開けるのも彼のおかげだ。
 だから彼が死んだという事実は皆にとって受け入れられないことで、そんな時にロックオンに似た弟だ。
 それで時々ちらつくロックオンの面影に皆は拒否しているんだ」
「・・・刹那は、?刹那は俺のこと、ニールとして見てるのか・・・?」
「何故?何故お前をニールとして見なければいけないんだ。お前は違うと言っただろう。
 だからお前はニールの皮を被らなくていいんだ」
「でもっ!それでもっ、皆は俺をニールとして見るっ!」
「じゃぁ俺はお前のことをライルとして見る。皆がなんと言おうとお前はロックオンで、ライルだ」
ふわりと微笑む。するとそれを見たライルは目を見張って顔を真っ赤に染め上げた。
「?どうした」
「な、なんでもないっ」
「そうか?」
「・・・」
少し慌てたように首を振って、ふと、こっちを見て止まる。
「・・・どうした?」
「・・・刹那」
名を呼んで、ゆっくりと手を差し伸べてくる。なんだと思ったその手の先は、自分の頬だった。
まるで自分がしているように両頬を優しく包み込んでゆっくりと自分の方へと引き寄せる。
「なん、」
「好きだ」
なんだ、と言おうとしたが、それは叶わなかった。
その後の言葉はライルの口の中へと消えていったのだ。
「んっ」
ソレがキスだと気付くのには数秒掛かった。何度もロックオンとしていたというのに・・・。
「はっ、ちょ、や、」
「刹那・・・」
「っ」
まるで求めるように見つめられて何も言えなくなる。
「刹那が兄さんのことを愛しているとしても、俺はお前を愛して、お前からも愛してもらう」
「ろ、くおん・・・」
「でも、俺は兄さんじゃない。だから、ライル・ディランディなりの愛し方でお前を落とす」
今度目を見開くのはこちらの番だ。
「ティエリアって奴にも、アレルヤって奴にも、誰にも負けない。刹那、お前は俺が貰う」
「・・・なんでティエリアとアレルヤが出てくるんだ・・・?」
「なんだ、お前気付いてないのか」
「なんのことだ?」
なら別にいいんだ、と笑うがまったくなんのことかわからない。
そう思ってるとまたゆっくりと顔を引き寄せられる。
「なっ、」
「もう、一回・・・」
反論をしようとしたらまた唇を塞がれた。
「ん、ふ・・・」
今度はゆっくりと舌を入れられる。驚いた。
自分でライルとニールは違うと言ったが、キスの仕方も少し違うと思う。
ニールは柔らかく、優しくキスするのに対して、ライルは少し乱暴に、それでも愛おしそうにキスをするのだ。
「あ・・・」
「・・・刹那、」
「ん、く・・・」
くちゅ、と、淫乱な音が聞こえる。
彼が死んでからこんなキスをしていなかった。でも以前より幾分かキスが上手くなった。
彼、ニールにもそう言われた気がする。
今だライルの両頬を包んでいたその両手でライルの胸を押す。
すると、その体はゆっくり離れていった。もう終わりか?という目で見てくる。
「・・・次キスする時は俺の心を奪ってからにしろ」
「刹那・・・!」
嬉しそうにむぎゅっ、と抱きしめてくる。強く強く抱きしめる。
「くっ、くるしっ」
「ああ、覚悟してろよ。俺は絶対お前を捕まえてやる」
「・・・ああ、」
「ニールじゃない、ライル・ディランディとしてのロックオンで」
「・・・ああ、」
「待ってろよ」
「・・・・・・ああ」

再び強く抱きしめて、ドアの前で見た影が見えないことを確認して、その体をライル、ロックオンへと預けたのだった。



⇒あとがき
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