novel*その他
□だって愛してるから
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試合終了を知らせるブザーの音が、無情にも体育館内の空気を震わせた。
いくら見ても変わらない電光掲示板の数。
結局は越えられない壁。
そうだよ、あの火神ですら越えられなかった光という壁を、俺は頑張って越えようとした。
いっそ、壊して突き進んで、その先にいる彼を抱き締めたかった。
沈むチームメイトたち。不思議と涙は出ない。
湧き上がる歓声の中に混じるあいつの名前。ムカつくけど、心は冷静だ。
先輩が労いの言葉を肩を叩くのと共に送ってきたが、頭の中には入ってはこなかった。
まるで全ての音や空気が一枚硝子の向こうにあるような、そんな感覚。
ああ、終わっちゃったんだな。
自然と上を向くようになる。
「――黄瀬くん…っ!」
煩わしい歓声の中、硝子で隔てられた俺の中に入ってきたのはやはり君で。
意識しなくとも目で君を見つけて。
――ああ、泣きそうな顔してる。
――抱き締めたいな。
きっと俺はへらっと笑っていたのではないだろうか。
だけど、泣きそうな君を見たら無理矢理にでも笑うしかなかった。
*
「俺、青峰っちに勝って、それで、迎えに行くっスよ」
「誰をですか?」
確かあの時、わかってるクセに。と内心苦笑していたんだっけと思い返す。
「勿論、黒子っちを、スよ」
少し冷えた頬に手を伸ばして答えた。
その返答がまるでわかっていたかのように、黒子っちは平然としていた。
「そうですか。せいぜい頑張って下さい」
そっけなく言い放つ。他人が聞けば、距離を置いたような、ソレ。
だけど俺が頑張るには充分すぎる言葉で。
「頑張るっスよ」
だって愛してるから。
俺は本気だよ?
黒子っち、
青峰っち、
――火神っち、
*
そうだったね。
試合前黒子っちと偶然会ったその時そう宣言したじゃないか。心の中では少なくとも3人に。
俺と同じように大量の汗をかいて、だけど余裕そうな笑みを浮かべたあいつが前から歩いて来た。
俺も俯きながら真っ直ぐ進む。
互いに目は合わせない。
「テツは俺のだ」
言い返せない自分が悔しい。
再び黒子っちの方に目を向けた。そこには変わらず君がいて。
悲痛に歪めた瞳に、俺の視界まで歪んだ。
(でも、でもね)
俺は諦めないよ。
(愛してるから、奪ってみせる)
(諦められるワケがないから)