novel*その他
□この安穏な時を
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ぽかぽかとした陽気が気持ちいい。
最近の殺伐とした雰囲気のせいか、あまり安らぐ時間がなかったように思える。
それは、王も、『右目』も――。
銀公を連れないでの散歩も久しかった。
だから今は王と『右目』二人きり。
「陛下、そろそろ――」
職務に戻らないと補佐官に怒られますよ。と言おうとした言葉は、背中にのし掛かって来た重みにより途切れる。
「…陛下?」
すると聞こえてくる静かな呼吸音。そこでようやっと王が寝ていることに気付く。
確かにここは日当たりがよく、草木に囲まれて涼しい。昼寝には持って来いな場所だ。
だがそれでも王にはやらねばならない仕事があって、急に消えた王を躍起になって探す者もいるだろう。
王の護衛だから付いてきただけな『右目』でさえもとばっちりを受けかねない。
それが補佐官の耳に入ってしまうのもなんだか避けたかったら。
「陛下、起きて…っ!」
ゆっくりと立ち上がって起こそうと思った『右目』の首もとが引っ張られる。
よく見ると、眠っている王の左手には、器用に『右目』のマフラーがしっかりと握られていた。
「………陛下…」
すやすやと、『右目』の背中に背を預けて寝る姿は、『右目』を信頼しているのだとよくわかった。
だからなのか、王はとても気持ちよさそうに眠っている。
王が『右目』を知らないように、『右目』も王のことを知らない。
その知らない事実が悲しくもあり、言えない事実が苛立たせる。
そもそも、『右目』がカトルディーナ国の国王の護衛をしてるなどあってはならないのだ。
実際ならば『右目』は護られる立場の人間なのだから。
だが、それは兄を裏切ってから一変した。
自分は王を決して裏切らない。そう誓った。
だがいつそれが覆るかもわからない。
カトルディーナ国に次々と攻め入る刺客たち。その大半はゼフィル帝国の国王からの者たちだった。
いつ自分の正体がバレるかもわからない状況。いつまで、いったいいつまで、この安穏な生活が出来るのか。
ただ、想うのはそればかり。
だから今は、今だけは、この安らかな時で休んでほしいと切に願う。
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