novel*00

□甘いコーヒーを共に
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温かい湯気が2つのマグカップから漂う。

「…ふと思ったんだが」
普段あまり喋らないティエリアが背後から話し掛けてきた。
「なんだ」
コーヒーの香りをその鼻に受けながら刹那はティエリアの言葉を背で受ける。
だが自分が応えても話しかけた本人はじ…とこちらを見つめたままだ。
背を向けていても、彼の視線がわかる。
居心地が悪くなり、両手に温かいコーヒーの入ったマグカップを持って椅子に座るティエリアの近くまで寄り、手渡す。
「ん。ブラックでよかつんだよな」
そう言いながら自分のコーヒーを口に含む。
いつの日か自分が飲でいた砂糖とミルクたっぷりのコーヒーをティエリアが勝手に飲んで俺はブラックがいいとほざいた時があった。
だからそれ以来、彼にコーヒーや紅茶を持っていく時はストレートにしていた。
もちろん自分のは砂糖とミルクたっぷりのコーヒーだが。
「ああ、ありがとう」
ロックオンに自分の想いを伝えた時以来からか、ティエリアの口調や雰囲気がよくなったと思う。
手渡されたコーヒーを口に含む。
それでもずっと見つめ続けるティエリアの視線の先は顔とかじゃなく自分の腰。
さすがに怪訝に思い問いかける。
「ティエリア、どうし」
突然伸びてきた色素の薄い肌色の手が刹那の腰を掴む。
コーヒーはすでにテーブルの上に置かれていた。
両手でしっかり掴まれて嫌じゃないとはいえ、さすがに驚いた。
「ティエリア…?どうした」
カップを持ってない右手で、自分の腰を掴んでいるティエリアの手に触れる。
「いや、ただ」
「?」
そこで少し切って少し考える素振りをした。
「16にしては細すぎだと思ってな」
ああ、そういうことか。
痩せすぎだと、以前ロックオンに言われ、なんならご飯作りに行こうか?とアレルヤに言われた。
「お前、もう少し太ってもいいんじゃないか」
「…別にいいだろ」
「細すぎると怪我しやすいだろ」
別に細くても怪我うんぬんは特に支障をきたしたことはない。
「もっと食え」
「ティエリアも十分細いだろ」
「俺は別にいい」
「なら俺もかまわない」
ティエリアも十分細い方だ。
自分が痩せてて責められるのならティエリアも責められて然るべきだ。
「俺はちゃんと食べている。お前は食べてないんだろう」
「…別に食べなかったからといって死ぬわけじゃない」
そもそも、KPSAに所属していた頃は寝ず食わずで戦っていたことが多かった。
それに、食事中に襲われたら対処に遅れてしまうからわざとあまり食べなかった。
戦争地域に食料はほとんどないというのが第一理由だが。
「すぐには死なないだろうが空腹だと任務に支障が出る」
「俺は出さない」
キッパリと言いやる。
「それに」
「?」
ティエリアに任務以外でマイスターを気遣うことはあるだろうか。と、続きがあるようなティエリアを少し疑問に思った。
「何も食べなければ体調も崩す」
やっぱり。と思った。
介入中に体調でも崩されたら困る。彼はそう言いたいのだろうと思った。
だが、そうじゃなかった。
「お前に体調を崩されたら…俺が、心配だ」
「っ!」
任務のみに忠実だった少し前のティエリアならば信じられない言葉だ。
「まぁ、どちらにせよ俺は刹那が好きだ」
「っ…!」
こいつは突発的な行動と言動が多い。
まだ腰を掴むティエリアに驚かされてしまった…。不覚だ。
それが少し気に食わなくて、子供みたいな悔しさに自分の胸元ぐらいの高さにあるティエリアの顔に屈んで近づける。
「…な」
ティエリアの言葉を聞く前にその唇を自分のソレで塞いでしまう。
「!」
ティエリアが目を見開いてあからさまに驚いているのがわかる。
それに満足して唇を離す。
それでも顔はまだ近くてあと少しで鼻が触れてしまうぐらい至近距離だった。
「俺もティエリアが好きだ」
「…刹那…」
普段寡黙な刹那からこんな言葉を聞けると思っていなかった。だから刹那の行動とこの言葉に驚いた。
とくんとくん、と、心臓がいつもより早い鐘を心地良く鳴らしていた。
「愛してる…」
再び刹那から唇を付けられた。それがどうしようもなく気持ちいい。

長い触れるだけのキスからやっと解かれる。

「…甘い」

砂糖を入れすぎだ。と、顔を赤く綻ばせて言うのだった。


⇒あとがき
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